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TPPと著作権:韓国著作権局インタビュー
かねてからの念願だった、
韓国著作権局(KCC)を訪問し、
FTAにまつわる著作権法改正の影響について、
インタビューをしてきたので報告したい。

KCCは韓国著作権法第112条に定められた組織で、
著作権にまつわる、いろいろなことを担当している。
日本にはこれに相当する組織はなさそうなのだが、
文化庁著作権課やCRICの仕事の一部を包含したような、
100名弱のまあまあ大きな組織になっている。

もとはソウルにあったのだが、
政府の首都機能分散政策の一環で、
2013年に韓国南部、
プサンからバスで1時間ちょっとの地方都市
ジンジュ市に移転している。
ソウルには教育部門が残るだけだという。
多くの人が単身赴任で、
ソウルまで高速道路で4時間半かかるという。
組織ごと島流しのような待遇が気の毒で、
職員のみなさんは家族への説明がたいへんだったろうな。

まあ、それはさておき、韓国は日本でいま騒がれている
TPPにまつわる著作権3点セット
(保護期間延長、非親告罪化、法定賠償金)を、
韓国ーEU(2010年署名、2011年暫定発効)と
韓米FTA(2007年署名、2012年発効)のからみで
すでにやっている。
その経験から学びたいというのが、インタビューの趣旨だった。

インタビューは韓日の通訳を通して行った。
ここに書くことはわたしと通訳の理解力の範囲内でのことであり、
その正確さは保証できず、傍証のない部分もあるので、
くれぐれもそのつもりで。

まず、ふたつのFTAがらみで大問題になったのが、
保護期間延長と、一時的蓄積(キャッシュ)に複製権を認めることだった。
それはもう、たいへんだったと担当者はいう。

保護期間延長については、
まず韓ーEUのFTAに入り、
同様のことが韓米FTAにも入った。

日本の事情とは違って、業界団体が延長に積極的だったわけではないという。
少なくとも「もう決まったこと」と、
あきらめることでもなかったそうだ。

国民への説得のポイントはふたつあった。

第1は、将来的な国際収支にプラスになるということ。
本当にそうか?とも思うが、
それだけK−POPなどの輸出に
50年後も自信があるということか。

第2は、すでに著作権が切れているものは延ばさないこと。
適用の不遡及は当然のことなので、
これが説得ポイントだったというのは少し妙に思えた。

また、両FTAでは協定発効から延長実施まで2年の猶予期間が認められた。
この猶予期間を延ばす交渉をしたそうだが、
うまくはいかなかったそうだ。
そしてその2年間にヘミングウェイやヘッセの権利が切れて、
延長のインパクトを和らげられるというロジックも使ったそうだ。

著作権の国際収入は、FTA全体の1%くらいなので、
国家的には大きな問題にならないともいった。

デジタル・アーカイビングへの影響については、
韓国では2000年代なかばの法改正で、
著作権の残る所蔵資料をデジタル化する権利が
すべての公立・大学図書館に認められているので
影響はないとの意見だった。
(国立でなくても配信までできるのかは聞きそびれた。)

孤児作品対策としては、
裁定制度を使いやすくする方向で考えているとのことで、
それは日本とおなじ。

一時的蓄積(キャッシュ)に複製権を認めることにも激しい反対があったが、
適法な利用にともなうキャッシュは免責することで乗り切ったらしい。
ただ、適法か違法かユーザーが認識できない場合があり、
その点はあいまいさが残る。
一般的には、私的使用の場面では問題にしないという
共通理解があるとのこと。

非親告罪化については2段階の改正があった。
最初は2006年改正で、営利かつ常習性のある侵害を非親告罪にした。
これはFTAとは関係なく、世論の高まりを受けてのこと。
2回目はFTAにともなう2011年改正で、
商業的規模の侵害を非親告罪にした。
商業的規模とは、営利のためか、
あるいは常習性のあることをいい、
100万ウォン(10万円)以上の被害という基準もあるらしい。
ただ、100万ウォンの基準は明文化されたものではないともいっていた。
(このあたりは、少し理解が及ばなかった。)
(2016.2.2一部修正)

つぎの点が重要だ。
著作権侵害を警察が独自に動いて立件した例が、
2013年には約25,000件あったという。
(2016.2,2一部修正)

にわかに信じられない衝撃的な数字だったので、何度も確認したのだが、
警察独自の活動による立件だと、担当者はいった。
仮に通報を受けての立件が混じっていたとしても、
日本とくらべて対人口比でみても、ケタ違いに多い。

ここの情報によると、日本での著作権法違反の検挙数は、
2013年で240件に過ぎない。
韓国の人口は日本の半分以下の約5000万人だ。

どのくらいの勢いで増えたのかは聞いていないが、
日本の近い将来もそうなる危険性を感じた。

ちなみに、韓国で立件されたもののうち、
起訴されたものが約2,800件で、
ほとんどは略式起訴による罰金刑。
審理まで進んだものが約80件、
実刑になったのが1件。

(ここからは、あとで通訳さんに調べてもらったこと)
韓国では著作権者と関係ない法務法人(ローファーム)が、
侵害者をみつけては警察に通報するぞと連絡し、
「合意金」を要求するケースが増えている。
「合意金」の相場は、相手が小学生なら50万ウォン(5万円)、
大人だと100万ウォン(10万円)だそうだ。
いわゆるコピーライト・トロールで、
権利者でもないひとの「脅し」が現実味を持つのは、
非親告罪だからこそだ。
(2016.2.2一部修正)
(ここまで、あとで通訳さんに調べてもらったこと)
(2016.1.29追記:この種の「合意金商売」は、
著作権者やその代理人がしている場合も多く
非親告罪のせいばかりではないこと、
軽微な侵害では起訴されないことがあるのに
事情に詳しくない若者が合意金を支払ってしまうこと、
警察が合意金支払いを促して問題になったことがあること、
こうしたことに巻き込まれて若者が自殺したケースがあること、
などを張睿暎氏よりお教えいただいた。)


ちょっと脇道にそれるが、
日本では違法ダウンロードがすでに刑事罰化されているので、
これがTPPで非親告罪になれば
日本ではもっとひどいことになるかもしれない。
日本で刑事罰化されたときには、これは親告罪だから大丈夫という
言い訳を政治家のみなさんが盛んにしていたことを忘れちゃいけない。

韓国の話にもどそう。
あちらではwebhardでのファイル公開やp2pの利用者が多く、
ユーザーが意図せず違法アップローダーになってしまうことがある。

それから、なるべく刑事事件ではなく民事に誘導しているとか。
(通報があったときに、なるべく民事で争ってもらうようにする、の意か。)

法定賠償金制度のトロールへの影響も気になっていたのだが、
アメリカのように上限額と下限額を決めているのではなく、
韓国は上限額を決めただけなので影響ないという。
実際の裁判では、実損害額の賠償しか認めていないそうだから。
(このあたりは、日本が参考にできるだろうか。)

フェアユース規定は、FTAによる法改正のときに導入した。
FTAでは保護ばかり強くなるので、
利用も強くしないとバランスが取れないという判断が尊重された。

フェアユースを推進したのは、KCC自身と、
「進歩ネット」(当時は別名称)という市民団体だった。
後者は日本でいえばMIAUだろうか?(がんばれ、みゃう)。
KCCは主として法の専門家集団の立場から、
フェアユースの必要性を訴えたそうだ。

考えてみれば、KCCのように公的な立場から
法律的な判断をいえる機関が日本にはない。
文化庁は役所だし、
CRICには権利者団体の資金が入っているから
公的とはいいきれない。

フェアユースの実際の運用を聞いてみると、
やはりまずは個別制限規定で判断され、
それでカバーされないときにフェアユースで争うことになる。
フェアユースかどうかが問われた裁判は、まだないそうだ。

知り合いの韓国人研究者に聞いても、
フェアユースが入ったことはほとんど認知されていない。
制度の定着はまだまだ時間がかかりそうだ。

最後にACTAであるが、
メニューがだいたいTPPに入っているので、
署名以後の、担当者の関心は落ちているとのこと。
今後、批准する予定もないそうだ。
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TPPと著作権 大筋合意を受けてこれから起こること
TPP交渉が5日に大筋合意に達したと発表があった。ぼくの基本的なスタンスは、著作権のような文化のあり方に直結することを貿易交渉のなかでやることに大きな違和感があり、ましてや秘密交渉ならなおさらだということにある。なお、交渉全体をどう評価するのかは重要な観点だと認めるが、それはぼくの能力を超える。そのうえで、これから起こるであろうことを書いておく。ただし、現時点では不確かな予想も混じってるし誤解もあるかもしれないので、その点は注意してもらいたい。

まず、いまの段階ではまだ「大筋合意」なので、条文を確定する作業がまだ残っている。これにはあと1ヶ月以上はかかるのではないだろうか。大急ぎでやったとして確定は11月初旬。これが遅れると後のことが全部遅れる。

条文が確定したら「署名のための開放」が行われる。それから各国がそれに署名して、それぞれの国内手続きに入る。米国大統領が署名(これは批准のことではない)するには、貿易促進権限法(TPA)によって90日前までに議会に通知しなければならない。そうすると、米国の署名は早くて2月初め。たぶん、他の交渉参加国もそれと同時に署名するだろう。米国での条文の全文の公開については、署名の60日前までにネット公開することをオバマが義務付けたらしいので、12月初め頃にはあきらかになるだろう。
(2015年11月5日追記:本日、現時点でのテクスト全文がニュージーランドから公式に公開された。ただしまだ確定条文ではない。)
(2015年11月6日追記:5日にオバマは署名を議会に通知した。これにより、米の署名は早くて来年2月3日になった。)
(2016年2月4日追記:本日、参加12カ国がニュージーランドで署名した。)

署名してから米国内での実施法案をまとめるのに最低1ヶ月として、審議入りが3月初め。そして今回オバマにはTPAが与えられているから、議会は90日以内に法案を全部受け入れるか、全部拒否するかのオール・オア・ナッシングの判定を下すことになる。TPPをめぐっては米国内でも意見が割れているので、すんなり通るとはとても思えない。米国議会で否決されるシナリオも考えられないわけではないが、まあ可能性は低いだろう。時間をいっぱいいっぱい使うと米国の批准は5月末くらいか。

米国に忠実な日本としては、それまでに批准しておきたいところなのだろうが、そうはいかない事情がある。来年7月の参議院議員選挙である。TPPが来年の通常国会後半の中心になることはほぼ決定的だが、集票力の高い農業団体には不人気な内容を含んでいる。与党の見込みどおり、来年夏までに国民は安保法案のことは忘れるとしても、支持率回復は気になるところなのでTPPの審議あるいは採決を選挙後に先送りする可能性もある。

日本の批准がいつになるのかは別にして、TPPに合わせた国内法の改正に向けた動きは、すでにはじまっている。たとえば、10月21日にマンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟が著作権侵害の非親告罪化について、赤松健氏、玉井克哉氏、福井健策氏、コミケ関係者らにヒアリングするという情報がある。

ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)の例からみても、TPP批准審議に入る頃には、必要な国内法改正は終わっているだろう。それはおそらく、審議会などを通さない方法で来るだろう。そうなると、ロビイング力のある業界団体の、ほぼ独壇場になる。さらに、TPP関連法案がまとめて審議されるだろうから、著作権のような票にならない分野は審議時間も割かれず、報道も少ないという状況が予想される。それにいまのような国会勢力図だと、与党の思うままの法案が通る。日本が提唱したACTAの場合は秘密交渉にしたことが致命傷になって欧州で否決され、事実上お蔵入りしたわけだが、ACTA以上の秘密交渉だったTPPを批判できる市民力は、残念ながら日本国民にはなさそうだ。
(2015年11月5日追記:昨日、文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会があり、TPP対応の法改正についてヒアリングが行われた。急ぎで審議会審議をする方向になったようで、ここでの予想は幸い外れた。)

それよりも前に、最終条文の日本語訳がいつ公開されるのかが問題だ。おそらくすでに翻訳にとりかかってはいるのだろうが、米国での公開よりは早くはならないはずだとすると12月頃だろう。ちなみに官邸からは10月5日に「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要」なる文書が公開された。この程度の文書をどうしてもっと早く出せないのかと思う。知財に関しては、Wikileaksなどのリーク文書と内容に食い違いはなく、リークの正しさは証明された。
(2016年1月8日追記:昨日、昨年12月末時点の条文の暫定仮訳が正式公開された。)

ちなみにこの「概要」だが、日本向けにカスタマイズされたものになっている。米国通商代表部は大筋合意に合わせてTPPのサマリーを公表し、またTPPのサイトを作ったようだが、現時点で日本から出ているものほど詳細な情報はみつけられず、その点では日本政府は情報公開にがんばってくれているのかもしれない。

しかしそれにしても、訳語選択から生じる微妙なニュアンスの差違には気を付けたほうがよい。たとえば「概要」の非親告罪化の部分(31頁)には、「故意による商業的規模の著作物の違法な複製等を非親告罪とする。ただし、市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない」とあるが、「収益性に大きな影響」の「大きな」にあたる表現が、最新リーク文書(2015年5月時点テキスト)注251にはみられない。この注はリーク文書時点で確定していると読めるのだが、最終条文にほんとうに「大きな影響」の表現が含まれるか要チェックである。その「大きな影響」を具体的にどう法律に落とし込むのか、大きな疑問が残るのだが。

このほか、「概要」32頁の「知的財産権等使用料(受取・支払)の推移」グラフでは、日本は大きな黒字になっているのだが、これは特許を含めた数字であって、こと著作権料に限っては福井健策弁護士が何度も指摘してるように、日本は大赤字なのだ。ミスリーディングを誘うグラフなので要注意。

さて、TPP交渉国が協定を批准したとして、それですぐに発効するわけではない。そこで気にしなければいけないのは、2月12日のエントリに書いた、米国議会のサーティフィケーション・プロセス(承認手続き)のことだ。サーティフィケーション・プロセスとは、交渉参加国の法改正が米国の要求を満たしていると承認するプロセスのことで、それが完了するまでは米国の国内法上の手続きを終えたことを相手国に通知することを保留するらしい。そういうプロセスがもし存在するならば、日本の国内法の改正案を事前に米国に提示して「これでよろしいでしょうか」的なやりとりが発生するという、情けないことも起こりえる。もちろん、そんなことは表沙汰にはできないだろうが、ありえることだ。

さて、「概要」36頁にはTPPが発効する条件として、「全ての原署名国が国内法上の手続を完了した旨を書面により寄託者に通知した後60日後」か、あるいは「2年以内に全ての原署名国が国内法上の手続を完了しない場合、原署名国のGDPの合計の少なくとも85パーセントを占める少なくとも6か国が寄託者に通知した場合には、本協定は上記2年の期間の経過後60日後」に発効するとある。10月7日の朝日新聞の報道によると、米国の名目GDPは62.1%、日本は16.5%だから、日米のどちらかが寄託者(今回はニュージーランド)に手続き完了を通知することが、TPP発効の必要条件になる。

そこで気になるのが、やはりサーティフィケーション・プロセスとの関係だ。仮に米国が他国の国内法改正の水準を見極めるまで通知を遅らせたら、その間はTPPは確実に発効しない。(しかし、相手国の法律はすでに変わっている。)それでは、米国はいったいいつまで通知を遅らせることができるかとなると、そこにオバマの任期がからんでくる。次期大統領が誰になって、そのひとのTPPへのスタンスがどうなるかはわからない。有力候補のヒラリーは、あきらかにTPPには後ろ向きだし、彼女が当選したらTPP再交渉というシナリオもありえる。米政権はオバマの業績として任期中にTPPの発効を確実にさせたいところだろう。そうなると、2016年11月8日の大統領選挙前、遅くとも2016年中にはサーティフィケーション・プロセスを完了しなければならない。

それがまた、日本の法改正・批准日程に跳ね返ってくる。仮に2016年夏の参議院議員選挙後までTPPのことは先送りにするにしても、まじめな与党は秋には臨時国会を招集して、米国にあわせて2016年内に決着させようとするだろう。そんなに急ぐ必要はぜんぜんないのだ。むしろ米国に先に国内手続き完了を寄託者に通知してもらい、サーティフィケーション・プロセスによる米国からの横やりを無力化し、「親分」の顔色をうかがうことなくじっくりと国内議論をすればよい。つまり、日本のTPP対応は米国大統領選の結果などをみながら2017年の通常国会までかけて、何が国益なのかをじっくり考えるのがいい。日本が通知しなければTPPは発効しないという強みがあるうえ、5年も交渉してきたことが半年や1年遅れたとして、それが経済で大打撃を受けるわけでもないのだから。

いずれにしても、TPPに入るための著作権法改正への動きはもうはじまっている。保護期間延長も非親告罪化も法定賠償金も過去の審議会では導入が見送られてきたものばかりだ。政治家主導の立法は、熟議がないので危険だ。先日改造された第3次安部内閣で著作権を主管する文部科学大臣になった馳浩氏は、業界のいいなりになって違法ダウンロード刑事罰化を推進した中心人物だということも、忘れてはいけない。

(2015年10月10日 文言を一部修正)
(2016年4月20日追記:TPP批准案と関連法案は4月5日に衆議院で審議入りしたが、黒塗り文書問題やTPP特別委員会の西川委員長による「暴露本」出版計画などで紛糾していたところへ熊本地震がおこり、政府は今国会での批准を断念するようだとメディアは伝えている。)
(2016年10月18日追記:TPP承認案と関連法案は、10月14日に衆議院の特別委員会であらためて審議入りした。)
「ディズニー美術展」をみる
京都の岡本光博さんの画廊・KUNST ARZTで開かれた
「ディズニー美術展」へ行ってきた(昨日終了)。

「ディズニー」と付いているが、D社とは関係ない催しだ。
D社のキャラクターや商標を題材に、
知財とアートの関係を問い直そうという企画とみた。

5人のアーティストが出品していたので、その感想を書いておく。

まず、壁を大きく占めていたのが、
福田美蘭さんの新作「誰ヶ袖図」。
金壁画を模したような背景で、
衣桁や屏風にDアニメのキャラクターたちの衣装が掛けられている。
そして屏風に描かれた風景は、どこかでみたような……。
寓意が何重にも仕込まれていて、
実に多様な読み解きができる。
いつものことながら、すごい力量だと、しばし立ちすくんだ。
どこかの美術館が買いそうだということで、
そのうちみなさんも目にする機会ができるでしょう。

おなじ部屋には画廊のオーナーである岡本光博さんによる、
某鼠の種々のぬいぐるみを解体してアレンジした作品があった。
どれもけっこう違う顔をしているのだけど、
そのどれもが、たしかに、あの鼠だと認識できる。
そしてそれを「退治」しようとするアーティスト。
その闘いの行方やいかん。

その部屋のもうひとつの壁には、
ピルビ・タカラさんの作品がビデオ上映されていた。
シンデレラのコスプレで、
ユーロ・D・ランドに入場しようとするアーティスト。
それを阻止しようとする警備員。
その様子を、こっそり撮影した作品だ。
「夢の国」に働く知財のコントロールを暴いた作品なのだが、
ぼく的にはいまひとつ、感じるものが弱かったかな。

ふたつ目の部屋にはおふたりの作品があった。
まず高須健市さんの作品は、
D社のマークをひっくり返したものが、
商標登録されるか(出願中)、という作品だ。
類似商標の臨界点を試すものとして、おもしろい。
出願結果はどうなるのだろうか。

最後は、人気上昇中の入江早耶さんによる「消しかすアート」。
D社の絵本を消しゴムで消したかすを集めて、
(つまり、絵本から色を取る感じ)
練って粘土状にしたものを使って、
キャラクターを合体させた精巧な造形をしていた。
みていると、触ってみたくなる質感だった。
入江さんに聞いてみたら、
展示している状態は、まだできたてで、とても柔らかいのだが、
時間が経つとだんだん固まってくるのだとか。
そのフラジャイルさと、
ときとともに質を変えていくという楽しみが、
所有欲をそそる。

夜は、関係者が30人ほど集まって、
いろいろ意見交換をした。
結論的には、D社って、アートには意外と理解あるのかもね、
ということになった。
(でも、D社本体と日本の運営会社とでは、
考え方が違うかもよ、という意見もあった。)

岡本さんは、画廊が潰されるかも、という覚悟をしてたみたいだけど、
会期終了までは、さしたることはなかったそうだ。
(米国からD社のひとが、みに来られたそうだが。)

展示の概要はこちら。
http://kunstarzt.com/exhibition/VvK/111DisneyArt/DisneyArt.htm
TPPによる著作権の非親告罪化、するもしないも矛盾しない
ついさっきのことだが、こんどは47NEWSの「TPP、著作権公訴を義務付けず 日本が導入に難色」という記事で、「……著作権が侵害された場合に被害者の告訴がなくても政府が公訴を提起できる制度を、参加12カ国に一律に義務付けない方向で調整していることが11日分かった」と報じられた。

これは日本は非親告罪化をしなくてよくなったといっているのだと読めるが、2月11日のお昼のNHKニュース「「非親告罪化」とする方向で調整を進めている」というアナウンスと真逆にみえる。

NHKは非親告罪化するといい、47NEWSは非親告罪化しないという。

しかし、これらのニュースは矛盾しないというのが、ぼくの読みである。

なぜなら、NHKニュースでは「適用範囲について各国が判断できる余地を残す案が示された」とある。つまりそれは、非親告罪化の範囲に裁量の余地が残されたということであり、それは国の事情によっては非親告罪化しない部分を残すことが可能になったということだと考えられる。

一方、47NEWSでは非親告罪化を「一律に義務付けない」ということなので、それは限定的に非親告罪化を導入することだともいえる。

つまり、おなじソースのニュースを、NHKは非親告罪化することになったと伝え、47NEWSはしなくてよくなったと伝えたのではないだろうか。

ちなみに、47NEWSでは「日本はTPPによる著作権の現行制度を変える必要はなさそうだ」とあるが、保護期間延長や法定賠償金のこともあるので、それは言い過ぎだ。
TPPと著作権 これから起こること、米国議会のちゃぶ台返しはあるか
TPP交渉の著作権部分について、2月2日の日経新聞で、保護期間を70年にする方向で調整に入ると報道があり、2月11日のお昼のNHKニュースのトップニュースで、非親告罪化を導入する方向で調整に入っていると伝えられた。

内容はリーク文書通りであり、多くのひとが予想していたことであり、たいして驚きもなく、誤報を疑う根拠もない。しかしこうも予想通りの流れがみえてくると、米国のいうことを聞くだけなら誰でもできるぞと思うひとも多いだろう。これだけ譲って代わりにいったい何を勝ち取っているのか、それがさっぱりみえてこないのが問題だ。

NHKの報道では、営利目的などの著作権侵害は原則として非親告罪化するが、適用範囲については各国に裁量の余地を残すということで、日本も受け入れたという。だが、ちまたで心配の声があがっている同人誌販売などは、営利目的とみなされうるものなので、非親告罪化の原則が適用される覚悟をしたほうがよい。

ちなみにこれまでのリーク文書で、非親告罪化は「コマーシャル・スケール」の侵害に限るという議論があったのは知られている。しかし「コマーシャル・スケール」をどう定義するかについては、各国の意見がわかれていた(邦訳は@fr_toenさんのブログ第QQ.H.7条)。非親告罪化の適用範囲に裁量の余地が与えられそうだから、日本は「コマーシャル・スケール」すなわち「営利目的」を独自にぐっと狭く解釈してクリアできるかもと考えたのだろう。

ところが、それは米国(すなわちステーク・ホルダーである米国大企業、著作権の場合はディズニーなどハリウッド映画産業)が許さず、TPP妥結後に「ちゃぶ台返し」にあう危険性がありはしないかと、ぼくはみている。それは米国議会での「承認手続き」のことである。「承認手続き」とは、FTA交渉で妥結した内容にかかわらず、相手国の国内法や規制緩和が米国議会が認める水準に達していない場合に、米国は協定を発効させないことができるものだ。つまり、妥結した交渉テキストに沿うと考える国内法改正を相手国がしたところで、それが米国議会の要求を満たすものでなければ協定は発効しないし、再交渉して他国の法改正に干渉することも辞さない。より詳しいことはTPP: NO CERTIFICATIONのページ(7番)に情報がある。そこにある情報のウラは完全に取ってはいないのだが、考えさせられる内容を含んでいるのでぜひ読んでみて、みんなで真偽のほどを調べてみてほしい。

つまり、「承認手続き」の段階で、米国がほんとうにどこまで「コマーシャル・スケール」の解釈の独自性を認めるかが問題だ。この点について2013年のリーク文書中での米国の要求は、何らかの価値あるものの受取(期待を含む)は「コマーシャル・スケール」とみなすという、たいへん厳しいものだった(第QQ.H.7条およびその脚注あたり)。これだと同人誌1冊でも売ろうとするだけで(実際売ってなくても)引っかかるだろう。これがハリウッド映画産業の要望により近いものなのだとすると、日本がそれを緩く解釈しようとしたら、それなりのプレッシャーを受ける可能性がある。

とはいっても、オバマが求めているファスト・トラック(TPA)法案が通れば、議会の「承認手続き」段階での修正要求など心配しなくてもよいのではと思うかもしれない。TPAとは、政権が結んだ協定を議会が一括・無修正で承認することである。この点について、先に紹介したTPP: NO CERTIFICATIONは、たとえファスト・トラック権限が大統領に与えられても、米国議会はTPPの最終条文の変更を要求できると警告している。「承認手続き」は政権が結んだ協定の「修正なしの承認」か「否認」かを議会が選択できるものだ。いわばTPAがあれば交渉結果はオール・オア・ナッシングになる。逆に言えばTPAがなければ交渉テキストは妥結後であってもいくらでも変更可能とするのが米国の考え方で、この点は日本とは大きく違う。だが、米国の政権としてはせっかくまとめた交渉を議会に否認されてはたまらない。相手国の国内法改正や各種の措置が多くの議員(つまり彼らへの献金者である大企業や圧力団体)を納得させられないと悟ったら、TPPの再交渉という事態も予測できる。米韓・米コロンビア・米パナマFTAをめぐる、TPA、再交渉、議会承認のゴタゴタについては、JETROのレポート(14ページあたり)を参照。

今後の注目点としては、まずはTPA法案が米国議会で通るかどうかである。これについては、TPAを求めるオバマに対して身内の民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員(前職はハーバード・ロー・スクールの教授で、ウォール・ストリート選挙運動の理論的指導者のひとりとされる。このひとには次期大統領候補の呼び声もある)らが反対し、両院で多数派をしめる共和党のオリン・ハッチ上院財政委員会委員長(このひとは、著作権侵害を誘発するおそれのある機器の製造・譲渡に刑事罰をつけようとして失敗したことがある)らが推進を表明する、わかりにくい状況が生まれている。まあ、議員の独立性が高いという点では、ある意味健全なのかもしれない。とくにウォーレン議員はTPPの秘密交渉を批判していたし、最近はISDS条項に懸念を表明するなど、その主張はまっとうだと感じている。

国内の動きとしては、もし日米交渉がまとまるようなことがあれば、TPP本体の行方如何にかかわらず、著作権保護期間の70年への延長、非親告罪化〔法定賠償金もか)の流れが一気に具体化していくだろう。これらはすでに米国との約束で決まったこととして、問答無用の改正が、審議会を経ない議員立法でされる危険性が高い。そうさせないためには、あるいはよほど変な方向に行くことを阻むためには、いまから議論を盛り上げていかないといけない。保護期間ならば登録した著作物だけを70年に延長できることにする、非親告罪化は軽微な侵害は問わない、累犯に限る、デッドコピーに限るなどの細かなルールメイキングは可能である。また、近年の審議会で権利者団体によってつぶされたフェアユース導入を再度考え直すなど、総合的なバランスを取った改正にしないと、著作権法は極めて危険な文化・情報統制法に成り下がってしまうだろう。それから、同人の世界がつぶれてしまうよという議論はおそらく、対米国には無効だろう。なぜなら、米国の映画産業にとっては日本製マンガ・アニメは競争相手であり、その底辺を支える同人界などつぶしてしまって、米国製の映像娯楽だけを消費してもらいたいのだと邪推しても、あながちおおはずれではなかろう。その証拠に、フェアユースを入れろという要求を米国は決してしない。

それにしても、文化にかかわる法律の方向性を外国との秘密交渉で決めてくるという手法は、どう考えてもおかしい。その点は繰り返し主張したい。しかも、70年保護も非親告罪化も数年前の国内議論で導入を見送った経緯のある、いわく付きの条項だ。著作権を譲って何を得たのかもはっきりしないようでは、もはや交渉ではなくただの追随だといわれてもしかたあるまい。
TPP知財分野で多数派を形成する方法を考えてみた
TPPの新しいリーク文書が出た。
(邦訳は@fr_toenさんのブログにある。)
2013年11月19〜24日にソルトレーク・シティーで行われた
首席交渉官会議のときの資料のようだ。

項目だけみても、関税や知財だけじゃなく、
生物多様性や気候変動まで入っていて、
別の国際機関でケンケンガクガクやっているはずの交渉を、
アメリカ基準でまとめてしまおうっていうのだから、
これが単なる経済交渉じゃなくて、
アメリカ中心の世界秩序作りだということが知れる。

ほんとうはこういうのは、全体をみて考えないといけないのだろうけど、
それはぼくの頭ではできないので、
関心のある知財に限って、
どうやったら日本が多数派を形成できるか考えてみた。
(おまえ、そんなことしている場合か!という罵声が飛んできそうだが。)

元データは上記のリーク文書にある表とする。
ただし、この表自体がかなり単純化されたもので、
実際の交渉はもっと複雑怪奇なものなので、
しかもいまの状況はもう変わってしまっているだろうから、
まあ、交渉官の苦労を知るための、お遊び程度にみてほしい。

まず、知財分野に限って、各国のポジションを主成分分析してみた。
第2主成分までの累積寄与率は72.6%ある。
(手法の詳細は、いまは省く。)

TPPIP_PCA.jpg

一見してわかるのは、アメリカとオーストラリアのぶっ飛びぶりである。

でも、これら2国を除くと、
ほかの10カ国は、けっこう固まってるんじゃないの?とみえる。

日本といちばん立場が近そうなブルネイ、ベトナムとの相違を
@fr_toenさんの表でみてみると、
「特許:特許性クライテリア」(BN,VN:反対; JP:保留)
「特許:新利用への保護拡大」(BN,VN:反対; JP:保留)
「著作権:ISP(チリ提案)」(BN,VN:賛成; JP:保留)
「商標:匂いの商標の導入」(BN,VN:保留; JP:反対)
「地理的表示:他の条約で認められた……」(BN,VN:反対; JP:保留)
「地理的表示:翻訳された地理的表示の……」(BN,VN:反対; JP:保留)
「地理的表示:地理的表示の存在が……」(BN,VN:反対; JP:保留)
となる。

それが日本にとってどうかということは置いておいて、
どちらかが保留にしているこれら7イシューで
ブルネイ、ベトナム、日本が歩調を合わせたら、
知財に関しては3カ国が団結できることになる。

さて、乱暴にもそういうことができたとして、
つぎに立場が近そうなのはチリ、マレーシアになる。

「地理的表示:ブランドを通じた商標の保護」(CL:賛成; BN,VN,JP:反対)
「執行:新刑事法要素」(MY:賛成; BN,VN,JP:反対)
と主張が対立するので、これらをまとめるのは、ちと難しいかもしれない。
けど、マレーシアに折れてもらえたら4カ国がまとまり、
「地理的表示:ブランドを通じた商標の保護」(CL:賛成; BN,MY,VN,JP:反対)
という構図になる。
このイシューでチリにも折れてもらえたら5カ国がまとまる。

そうすると次に近いのはメキシコで、その相違点は、
「著作権:技術的保護手段」(MX:賛成; CL,BN,MY,VN,JP:反対)
「国内法の扱い:TRIPSの……」(MX:保留; CL,BN,MY,VN,JP:賛成)
となる。

この2イシューでメキシコが折れて、
はじめて半数の国が一致という情勢ができる。

ごく単純化された表のうえで考えているだけなのだが、
ここまででも実現は限りなく難しそうだ。

結局のところは、この交渉は参加国が多いうえに、
意見の違うイシューが多すぎるのだ。

なんだかんだいっても、
「おまえの国は、誰が守ってやってると思てんねん、おら〜」
的な、パワーバランスが、最後にはものをいうのだろう。

テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

アメリカにだって海賊版DVDはあるのだ
CIMG2364.jpg

アメリカには海賊版DVDなんか、ないはずだ思うかもしれないけど、
それはまったくの見当はずれだ。

日系人・駐在員が多い街や日本食スーパーに行けば、
たいがいの場所で、日本のテレビ番組や映画の海賊版が売られている。

日本の情報に触れたいという、強くて切なる需要があるのだ。

そんな需要、知るかって感じで、権利権利といっているのを聞くと、
消費者は分が悪いとわかっていても、やっぱり何とかしてくれよと言いたくなる。

とはいっても、海賊版は種類も数も、5年前と比べたらずっと少なくなっている。
それでも完全にはなくならないとこをみると、
権利者は「お目こぼし」をしてくれているのかもしれない。

ぼくはある場所で定点観察をしているが、
最近はジャパン・アニメはほとんど姿を消している。

その空いた棚に、大量に入ってきたのが韓流ドラマである。

日本のコンテンツへの人気の陰りは、たしかにあると思うが、
海賊版アニメはネットへ移ってしまって、
いわゆる「情弱」向けのコンテンツだけがDVD販売で残っていると、ぼくはみている。


海外で暮らしていると、日本の情報、とくにテレビ文化から
切り離された感覚がとても強い。

若手俳優は誰がブレイクした?お笑いタレントは?CMは何をやってる?
時計はほとんど止まったままだ。

「まねきTV」はどうなったんだっけ?
こちらのケーブルテレビに日系のものはあるけど、
高いし民放の番組は(たぶん)ほとんどない。

NHKオンデマンドやhuluですら、海外からはみられない。

とりあえず、今年の紅白はどうしよう。
誰かに頼んで画面をスカイプ中継してもらうのは、
違法じゃないよね(たぶん)。

テーマ : アメリカ生活
ジャンル : 海外情報

違法DL刑罰化、ACTA関係の衆議院議員
先の国会での著作権がらみの議論で、
目立った動きをした衆議院議員のことを、
覚えとして書いておく。

(思い出したら、その都度追加します。)


違法ダウンロード刑罰化を積極的に推進した衆議院議員:
馳浩(比例・北陸信越、自民)
河村建夫(山口3区、自民)
下村博文(東京11区、自民)
池坊保子(比例・近畿、公明)(すでに政界引退を表明)
松野博一(比例・南関東、自民)

違法ダウンロード刑罰化に慎重な立場を積極的に取った衆議院議員:
宮本たけし(比例・近畿、共産)
川内博史(鹿児島1区、民主)


ACTAを推進した衆議院議員:
玄葉光一郎(福島3区、民主)担当大臣としての立場上、と思いますが。

ACTAに積極的に反対した衆議院議員:
斎藤やすのり(宮城2区、きづな)
三宅雪子(比例・北関東、生活)
川内博史(鹿児島1区、民主)
近藤昭一(愛知3区、民主)
すとう信彦(神奈川7区、民主)


賛成のひとも、反対のひとも、参考にしてもらえたらと思って。

(11月18日追記)
もっとよいリストが、@fr_toenさんのブログにありました。そちらを見ることをおすすめします。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

平成24年10月1日を迎えて
今日は何の日かだって?

それを知らない人は、このページには流れ着いていないだろう。

日本のネット社会にとって暗黒の日だと考えるひともいるけど、
法をどう使うかは、音楽・映像業界と警察の腹次第だってことを逆に考えると、
ぼくたちが関心をもちつづけ、
あんな法改正の仕方はないだろうといいつづけることで、
おかしなことが起こるのを、未然に防ぐこともできるはず。

問題は、あの立法プロセスをみてしまったことにで、
国民の遵法意識が下がったかもしれないことだ。
ぼく自身、法律は守らないといけませんといいながら、
苦々しい思いをかみしめていなければならなくなった。

法改正は、その必要性をきちんと検証し、
国民が納得できる手順を踏まないといけない。
そんな基本的なことすら、いまの政治家は忘れてしまっている。

たとえ百歩譲って、政治家の判断が正しかったとしても、
自ら進んで国民を議論に巻き込んだうえでの、
「情報を与えられた同意」を欠いてしまっては、
それは民主主義とはいえない。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

ACTA、そしてこれから
承認されたものを、どうこう言っても手遅れではあるが、
まずはこれが、あと5カ国の批准を得て発効するかどうかをウオッチしておくこと。

著作権侵害の非親告罪化や法定賠償金は、
義務ではないとはいっても、それらしき条項が入っているので、
ACTAを根拠に導入が図られないよう、気を付けなければならない。

非親告罪化、法定賠償金は本当に危ない。

ろくなフェアユース規定がない日本の著作権法にこれを被せてしまうと、
法律の意味合いが根本から変わってしまう。

「文化の発展に寄与する」法律が、恐ろしい情報統制法に化けてしまう。

非親告罪化、法定賠償金導入の要求がTPPに入っていることは周知の通りである。

TPPがACTAと同様の秘密交渉で進められていることも。


ぼくたちは、ACTAを通して、いくつかのことを知り、経験した。

ネット世論は1ヶ月で盛り上がること。
でも、議論のスタートは、早ければ早いほどいいこと。
国内マスコミの情報だけでは、何が起きているかわからないこと(ネット情報だけに頼るのも困るけど)。
現政権が官僚のいいなりであること。
官僚は国会の場でも平然とウソをつくこと(ACTA交渉の過程は公開されていたなどと)。
国会議員は、わからないことに賛成してしまうこと。
ネット社会への関心を持った議員が、もっと必要なこと。
個々の社会問題に強い議員が必要なこと(→議員定数削減はよいことばかりではない)。
政党や政治家の民意分析能力が足りないこと。
議員の自由を奪う党議拘束が害悪をもたらすこと。

これらの経験をどう活かすか、TPPは目前に迫っている。

テーマ : 伝えたいこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

ACTA:外務省見解にみる言葉のあや
問題のACTAは、明日(9月6日)に衆議院本会議で可決され、最終的に批准されようとしている。

そんななか、ACTAに対して寄せられている懸念に対する外務省見解が公表された

ネット等でいわれていることに答える内容ではあるが、お役所独特の言い回しが散見でき、素直に取りすぎると煙に巻かれることになるので、何点か注意を喚起しておきたい。

2(1)ACTAでは、「表現の自由、公正な手続き、プライバシーその他の基本原則」を各国がそれぞれの法令にしたがって維持することが繰り返し述べられています。正当なインターネット利用を制限したり、インターネット・アクセスを遮断したり、インターネット・サービス・プロバイダによる監視を義務づけるような規定は含まれていません。

前半の指摘はそのとおりである。ただし後半については若干疑問がある。第12条の規定で、「自国の司法当局が、適当な場合……他方の当事者に意見を述べる機会を与えることなく、暫定措置をとる権限を有すること」と定めており、正当性が判断される前にネットの利用制限や遮断が起こりえる。また、第27条4に「アカウントを保有する者を特定することができる十分な情報が求められている場合において、オンライン・サービス・プロバイダに対し当該情報を当該権利者に速やかに開示するよう命ずる権限を自国の権限のある当局に付与することができる」とあり、プロバイダによる「監視」を「義務づける」ような規定はないが、「監視で得られるのと同等の情報」の提供を必要に応じて求められるよう「推奨する」規定はある。

2(2)ACTAは、著作権の非親告罪化を義務づけるものではありません。また、いわゆる「違法ダウンロードの刑事罰化」は、ACTAに規定されているものではありません。

第26条の規定を著作権にあてはめると非親告罪化になることは、外務大臣の国会答弁でも否定していない。また第26条は「義務」ではないが「推奨」されており、これが非親告罪化導入の根拠に利用されない保障はまったくない。後半はそのとおりで、違法ダウンロード刑事罰化はACTAが求める以上の規制である。

2(4)ACTAを締結するために必要な我が国国内法の変更は、技術的保護手段の範囲の拡大のみであり、この点については、先般成立した「著作権法の一部を改正する法律」において既に手当てされています。この点を除いて、ACTA締結のために国内法令を変更する必要はありません。

国内法令を変更する必要はないのではなく、ACTA加入のための法令変更を、ACTA加入のためという理由を表に出さないようにしながら、着々と済ませていたと理解するのが正しい。

テーマ : 伝えたいこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

ACTAについて本に書いたことを転載
『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』という本を昨年の9月に出版しました。そのなかで書いたACTAに関する部分を、人文書院さんの了解を得てここに転載しておきます。




第6章 著作権秩序はどう構築されるべきか
「秘密主義へ」の節より抜粋

 この文章を執筆している二〇一一年四月時点で進行中のことに、日本が主導する「模倣品・海賊版拡散防止条約」(ACTA)(補注・現在の名称は「偽造品の取引の防止に関する協定」)締結に向けた動きがある。この条約はもともと、「知的財産推進計画二〇〇五」に書かれ、当時の小泉首相が〇五年のグレンイーグルス・サミットで提唱したものだ。ACTA締結に向けた集中的な協議を開始することが、〇七年一〇月に経済産業省からアナウンスされたものの、その後の協議は徹底的な秘密主義のもとに置かれた。国民生活に深く関係する条約なのに、外交機密の名のもと、国民の誰にもその内容を知らせないようにしながら交渉が進められたのだ。

 ACTA交渉の秘密主義については、各国の識者から批判が寄せられた。そしてドラフトが二〇〇八年五月から順次ウィキリークスに流出するにおよんで、その内容に対する批判が巻き起こった 。原案が正式に公表されたのは、交渉が最終段階に近づいた一〇年四月になってからだった。

 二〇一〇年一〇月の大筋合意文書によると全体は六章からなり、「知的財産権を執行するための法的な枠組み」「国際協力」「執行実務」「制度上の措置」などが規定されている。内容をみると「デジタル環境での知的財産権の執行」について、踏み込んだ合意がされている。それによると、コンテンツ保護技術を回避するコンピュータ・プログラムや機器、サービスが提供されることがないよう、条約締結国は国内法を整備しなければならない。さらに重要なことに、ここでいうコンテンツ保護技術には、コピー・コントロールだけでなくコンテンツの再生を許可するアクセス・コントロールも含むと書かれてある。第四章で述べたように、現在の日本の著作権法では「技術的保護手段の回避」による複製を禁じているが、それはコピー・コントロールのことであってアクセス・コントロールは含まない。

 フリーソフトウェア運動を推進してきたアメリカのフリーソフトウェア財団(FSF)は、「ACTAはフリーソフトをおびやかす」と抗議声明を発表した 。FSFはまず、ビットトレントなどのP2Pファイル交換ソフトが取り締まりの対象になることを心配している。P2Pはコンテンツの違法配信にも使われているが、フリーソフトの合法的で強力な頒布手段にもなっているからだ。FSFはまた、リナックスなどのフリーの基本ソフトが動いているパソコンで、DVDやブルーレイに入った映画など、暗号化されたメディアを再生することができなくなるとしている。これらのメディアを再生するフリーソフトを作ることは、アクセス・コントロールの回避だとされる心配があるからだ(補注・複製をしない再生のみのアクセスは合法なので、こういった当初の心配はしなくてもよいようである)。そしてFSFは声明文の最後を、「それ[ACTA]は監視と疑いの文化を創り出し、フリーソフトを制作するのに欠かせない自由が、創造的・革新的で興奮に満ちたものではなく、危険だ、脅威だとみられることになる」と結んでいる。

 日本はACTAの提案国なので、締結後をにらんだ法改正にすばやい動きをみせている。「知的財産推進計画二〇一〇」には、アクセス・コントロールの回避を規制するよう法改正をすることが盛り込まれた。また、二〇一一年一月の文化審議会著作権分科会の報告書では、保護手段を「技術」ではなく「機能」で評価し、DVDの暗号はアクセス・コントロールとコピー・コントロールの両方の「機能」を持つので規制の対象にすべきとされた 。もちろん、報告書ではACTAの大筋合意内容がしっかりと言及されている。秘密裏に交渉されてきたことが、著作権法改正の所与の条件になっている構造がはっきりとみえる。

 ACTAに限らず、貿易上の障壁を取り除く「自由貿易協定」(FTA)や「経済連携協定」(EPA)のような外交交渉の結果が、各国の著作権法を変える力になっている。知財の保護水準の低さがその国との交流の阻害要因とみなされ、より高い水準へと法制度がそろえられることになるからだ。アメリカはFTA・EPA交渉によって、相手国の知財関連法の規制を強くする戦略を取ってきた。たとえば、二〇〇七年に妥結した米韓自由貿易協定によって、韓国は著作権法の保護水準をアメリカ並みに高くすることになった。

 二〇一一年四月現在、日本はEPAのひとつである「環太平洋戦略的経済連携協定」(TPP)に参加するかどうかの決断を迫られている。TPPにはアメリカが参加しているので、その一員に加わるために著作権の保護期間をアメリカ並みに七〇年にする圧力が、ふたたび高まることが予想される。すでに述べたように、保護期間延長は審議会の場を越えた国民的な議論にまでなって見送られた経緯がある。その結論が外圧によってかんたんにひっくり返されることのないよう、注意を払わなければならない。




日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか
(2011/09/15)
山田 奨治

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ACTA:参議院外交防衛委員会ダイジェスト
2012年7月31日に参議院外交防衛委員会であった、ACTA関連のやりとりのダイジェスト。引用したいときは、参議院から公表されている正式な議事録からにしてください。「ACTAノート」も読んでみて。


山本一太議員(自民):EUでの否決をどう分析しているか。
玄葉外務大臣:欧州議会は欧州司法裁判所の判断を待つことなく否決した(注1)。インターネット分野での表現の自由を脅かすという意見が広がっている。ACTAは個人の正当なネット利用を脅かすものではなく、プロバイダに監視を義務づけるものでもない。
山:EUでの否決は過剰反応か。
玄:正しく理解されていない。丁寧な働きかけが必要。
山:今後の方向性は。
玄:まず発効させてから、働きかけをする。

宇都隆史委員(自民):中国を引き入れる外交交渉はどうなっているか。
玄葉外務大臣:昨年10月に対話を開始した。ACTAと中国国内法の整合性について共同研究の場を設けたい。

山本香苗委員(公明):EU不参加の影響をどう受け止めているか。
玄葉外務大臣:EUの対応を注視しながら働きかけをする。ただ6カ国が締結すれば発効するので、まずスタートさせてから働きかけをしたい。
山:新たな国内法整備は不要か。
玄:国内法で改正が必要だったのは、技術的保護手段を回避する装置の製造を規制することのみ。著作権法改正ですでに手当済み。
山:第23条について、個人が行う違法ダウンロードはACTAがいう刑事犯罪の対象ではないということでいいのか。
八木外務省経済局長:違法DLの罰則適用はACTAでは義務づけられていない。
山:第25条の規定(差し押さえ、没収、廃棄)は個人には関係ないということか。
八:そのように理解している。
山:第26条(職権による刑事上の執行)について、職権により捜査を開始できる「適当な場合」とはどういう場合か。
八:「適当な場合」の範囲は、各締約国の判断に委ねられている。わが国では同条の実施のために現行の国内法を改正する必要はない。
山:著作権はわが国では親告罪であるが、第26条はその非親告罪化ではないか。
玄:職権によりやってもよくて、やらなくてもよいということ。日本はやらなくていいと解釈をしている。非親告罪化が各締約国に義務づけられているわけではない。
山:ここをテコにして今後、著作権の非親告罪化は考えていないということか。
玄:そういうことでございます。
山:第27条(デジタル環境における執行)で、現在のネット規制がさらに強化されるのではないか。
玄:現行の規制が強化されることはない。
山:第27条「その他の基本原則」とは何か。
八:ここに明示してある権利に基づく権利。例えば、プライバシーあるいは個人情報の保護に配慮してこれを不当に侵害しないことを確保するため、法令の定める公正な手続きによりこれを適正に行うことが求められる、こういう風に考えている。
山:ジェネリック医薬品の流通阻害になる可能性は。
八:ACTAは特許権は保護対象にしていない(注2)。認可されたジェネリック医薬品が正規の商標を付している場合はACTAの対象外。
山:台湾にはどう働きかけるのか。
八:今後の検討課題。
玄:働きかけを行っていきたい。
山:EUには今後どう働きかけるのか。
八:欧州司法裁判所の見解が出た後、欧州委員会、各国との協議を行っていく。
山:わが国としてACTAレベルを世界のスタンダードにしていくことが大事では。
玄:真摯に受け止めて進めていきたい。

佐藤公治委員(生活):(EUでの否決について)何が足りなかったのか、これからどう説明していくのか。
玄葉外務大臣:署名したときは、中国にまず働きかけなくてはと思った。EUでの動きを分析してどういう働きかけがよいのか判断したい。
佐:行き過ぎた国内環境の整備・運用があった場合は見直すことを明言してほしい。
玄:山本香苗委員にお答えしたとおり。

小熊慎司委員(みんな):EUでの否決は外交上の大きな失敗。難しい案件ではなかったはず。誤解を理解に変える努力を怠ったのでは。
玄葉外務大臣:事前に行うべきことがあったのだはというと、確かにそういう所があるのかもしれない。協定が発効して中国などが入ってきたときは、意義あるものになっていくと思う。


その後討論なし。採決に入り全会一致で承認。

(注1)欧州議会での採決を前に、欧州委員会はACTAの合法性について欧州司法裁判所に諮問していた。ACTA推進派はその結果を待つよう主張し、反対派はこれを採決の引き延ばし戦略だと非難した。結果的には欧州議会は諮問結果が出る前に否決した。
(注2)第5条(h)にある「知的財産」の定義によると、特許も含まれるはずである。さらに説明を聞きたいところ。

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ACTAノート
 「偽造品の取引の防止に関する協定」(ACTA)の知名度は、ネットの中に限ればだいぶ広まってきたようだ。それに伴い、議論には根拠と正確さがいっそう必要だと思う。ACTAを推進しているのは頭のいい人たちである。あやふやな議論に基づいて反対していると、最後に足元をすくわれることになりかねない。

 ということで、思い付いた範囲でノートを作っていく。ぼくは法学者ではないので、プロがみたら用語が変なのはご勘弁を。また無理解から間違ったことを書いているかもしれないので、気が付いたら随時改訂を加えていくという態度になってしまうことをお許しいただきたい。後からどんどん書き足したり、状況変化に応じて訂正したりしているし内容に重複もある。

 それから、ぼくの興味が著作権なので、特許や商標、意匠のことにはあまり触れないことも、ご勘弁を。

 あ、それから最初に言っておくが、ACTAに書かれてあることのうち、これが合意された時点で日本で明らかに実現していなかったのは、第27条5項のリッピング規制の部分だけで、これについては不正競争防止法と著作権法を改正して対応済み。つまり、ACTAにある規制は日本の国内法では、だいたいすでにそうなっているということ。EUの市民がACTAは危険だといっているが、それは日本の社会はすでに危なくなっていますよと忠告されていると思えばいい。それはまた彼らの社会も危なくなっているということ。市民の目線で見ると危ないなと思える法律を整えた国同士が手を組んで、国際的な侵害も含めて法をしっかり執行しましょうという協定だといえる。ただし、内容的にはACTAよりもTPPのほうが、日本の知財分野への影響はずっと大きい。

(最終更新:2012年9月6日)



ACTAに対する意見(あえてコピペ禁止。ご自分の意見はご自分の言葉で語ってください。)

 「偽造品の取引の防止に関する協定」(ACTA)批准案の審議が国会ではじまりました。この協定は日本が提唱し米国とともに交渉を進めたものです。ACTAは広範囲なネット規制につながる可能性のある条項など、各国の市民生活に大きな影響を与えるかもしれない協定であるにもかかわらず、その交渉が極秘裏に進められてきました。

 本年1月にEUの22ヶ国が署名した後、ACTAは危険との見方が広まり、EU各国で市民レベルの反対運動が急拡大しました。欧州全域での3度にわたる一斉デモと280万人の反対署名を議会は無視できなくなり、EU議会は5つの委員会すべてで批准案を否決し、7月4日の全体議会でも 478対39の大差で否決しました。これによりEU22ヶ国はすべてACTAに加盟しないこととなりました。個別加盟国が署名済みの協定をEUとして否決したのは初めてのことであり、一連のことをシュルツEU議会議長は「欧州の民主主義にとって画期的な出来事」とまで評しています。

 上記のようにこの協定は、国際的に大きな問題を巻き起こしています。個々の条文にはあいまいな表現もあることから、国会議員のみなさまにおかれましては、各条項の意図について担当責任者に質問し、慎重に審議をしていただけるようお願いします。7月31日の参議院外交防衛委員会で玄葉外務大臣は、同協定第26条が著作権侵害の非親告罪化にあたることを否定せず、そのうえでわが国は非親告罪化を行わないと答弁しました。著作権に関しては外務大臣ではなく文部科学大臣の答弁が必要です。刑事上の執行の対象としている「商業的規模」の判定基準についても未だ不明です。さらに、EU議会で否決されるという、提唱国であるわが国の国際的信用の失墜させる事態を招いたことについて、玄葉外務大臣は7月31日の参議院外交防衛委員会で「正しく私は理解されていない部分があるのではないかというふうに思っていまして」と答弁しています。それでは、どこが正しく理解されておらず、その原因は何だったのでしょうか。EUではACTAが秘密交渉であったことに強い批判があります。その交渉手法に問題はなかったのでしょうか。第38条によると今後の協議も秘密とされていますが、そのような姿勢で国民の理解が得られるでしょうか。衆議院ではこういった点を明らかにしていただけたら幸いです。
(2012年8月12日時点)




ACTA関連、過去のエントリもご覧下さい。
「日本ではわからないACTA:欧州各国での抗議デモについて」
「ACTAに対するEUの懸念とは」
「ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)はホントの所、何が問題なのか」


ACTA主要事項年表はこちら(@fr_toenさんブログ)。

参議院外交防衛委員会でのACTA関連のダイジェストはこちら。

ACTAは2012年8月3日に参議院本会議で賛成多数で可決(217対9)され、衆議院へ送られました。反対票を投じたのは、外山・主濱・森(生活)、亀井・行田・谷岡(みどり)、平山・横峯(大地)、米長(無所属)外山・主濱・森(生活)、亀井・行田・谷岡(みどり)、平山・横峯(大地)、米長(無所属)の各議員。投票結果はこちら。

ここもご覧を。
@tentam_goさんの記事「ACTAについて外務省に確認(国会答弁の疑問点含む)」。
@fr_toenさんブログ「海賊版対策条約(ACTA)に関するQ&A」
「ACTA:外務省見解にみる言葉のあや」
「ACTA、そしてこれから」

参議院で野田首相の問責決議案が可決され野党が欠席するなか、2012年3月31日に衆議院外務委員会で民主党がACTAを強行採決しました(ただし、自民はACTA交渉を進めてきた政党であり、公明はACTAに賛成の立場とみられる)。この間、ほとんどの国会議員が無関心でいるなか、ACTAの慎重審議を求めて積極的に動いた議員は、斎藤やすのり(きづな)、三宅ゆきこ(生活)。

2012年9月6日、ACTAは衆議院本会議で賛成多数(起立採決)で承認、批准されました。他の3条約と合わせての採決でした。参議院での問責の関係で、野党議員は多くが退席しており、民主党の強行採決の形になりましたが、採決時に議員のあいだから「反対」の声も聞こえました。




 ACTAの条文の日本語仮訳はここから公表されている。協定の正文は英語、フランス語、スペイン語なので、日本語はあくまでも仮訳という位置づけ。英語の原文はこちら

 まずは全体の構成から。

前文
第1章 冒頭の規定及び一般的定義
 第1節 冒頭の規定(第1~4条)
 第2節 一般的定義(第5条)
第2章 知的財産権に関する執行のための法的枠組み
 第1節 一般的義務(第6条)
 第2節 民事上の執行(第7~12条)
 第3節 国境措置(第13~22条)
 第4節 刑事上の執行(第23~26条)
 第5節 デジタル環境における知的財産権に関する執行(第27条)
第3章 執行実務(第28~32条)
第4章 国際協力(第33~35条)
第5章 制度上の措置(第36~38条)
第6章 最終規定(第39~45条)

 という構成で、ネット民に特に関係するのは、第2章の第2,4,5節あたりになる。

 条文を読み進めるうえでのポイントを最初にいくつかあげておく。条文は、断定的な表現に訳されている文(英文では助動詞のshallで表現されている)と、「~できる」と訳されている文(英文ではmayで表現されている)とがある。前者は義務の規定、後者はそれよりも緩く、「~してもよい」という可能性の規定(その裏には推奨の意味あり?)と読める。
 第2章第2節は民事上のことなので、ペナルティも損害賠償だけで刑事罰はかからない部分の規定である。警察も民事には不介入が原則。それに対して第4節は刑事上のことなので、警察が動くことになり、逮捕もあるし、懲役や罰金などの刑事罰がかかる。該当の条文がどちらの節に属するものかは、区別しておく必要がある。
 また、個々の条文が物品に対象を限定したものなのか、デジタルデータのような無体物も含むのかも区別が必要。

第1章 冒頭の規定及び一般的定義
第1節 冒頭の規定
第1条 他の協定との関係
 この協定のいかなる規定も、既存の協定(貿易関連知的所有権協定を含む。)に基づく締約国の義務であって他の締約国に対して負うものを免れさせるものではない。

 ACTAは既存の協定で負う義務を無効にするものではない。ACTAよりも強い協定が存在する場合は、そちらが優先する。

第2条 義務の性質及び範囲
1 各締約国は、この協定を実施する。締約国は、この協定に反しないことを条件として、この協定において要求される知的財産権に関する執行よりも広範な執行を自国の法令において実施することができる。各締約国は、自国の法律上の制度及び慣行の範囲内でこの協定を実施するための適当な方法を決定することができる

 「各締約国は、この協定を実施する」は「義務の規定」。第2文、第3文は「できる」で終わっているので、義務ではなく「可能であることの規定」と判断できる。以後の条文でも文末が断定的なのは「義務」、「できる」で終わるのは「可能」と読める。

第3条 知的財産権の取得可能性及び範囲に関する基準との関係
2 この協定は、知的財産についての権利が締約国の法令によって保護されていない場合において当該締約国が措置をとる義務を生じさせるものではない。

 ACTAは、締約国において保護されていない権利を、新たに設けるものではない。したがって、出版社への隣接権付与などとは無関係。ACTAは国内法で保護済みの権利の「執行」についての協定である。ACTAのための法改正として行われたリッピング規制は、「複製権」という既存の権利の「執行」を強くしたのだと理解できるだろう(要確認)。

第4条 プライバシー及び情報の開示
1 この協定のいかなる規定も、締約国に対し、次の情報を開示することを要求するものではない。
(a)その開示が自国の法令(プライバシーについての権利を保護する法令を含む。)又は自国が締約国である国際約束に反することとなるような情報
(b)その開示が法令の実施を妨げる等公共の利益に反することとなるような秘密の情報
(c)その開示が公私の特定の企業の正当な商業上の利益を害することとなるような秘密の情報
2 締約国がこの協定に従って書面による情報を提供する場合には、情報を受領する締約国は、情報を提供した締約国の事前の同意がある場合を除くほか、自国の法令及び慣行に従い、当該情報が提供された目的以外の目的で当該情報を開示し、又は使用することを差し控える。

 権利侵害についての情報(ネットでいえばアクセス記録など)を、各国の法令の範囲内で締約国に提供し、情報の提供を受けた国はその国の法令に従って取り扱うようにと言っている。

第2節 一般的定義
(h)「知的財産」とは、貿易関連知的所有権協定第2部第1節から第7節までの規定の対象となる全ての種類の知的財産をいう。

 「著作権及び関連する権利」「商標」「地理的表示」「意匠」「特許」「集積回路の回路配置」「開示されていない情報の保護」を指す。(参考→知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)ただし「特許」に関しては、第2章第3節「国境措置」からは除外される(第13条参照)。

第2章 知的財産権に関する執行のための法的枠組み
第2節 民事上の執行
第12条 暫定措置
1 各締約国は、自国の司法当局が次のことを行う権限を有することについて定める。
(a) 当事者又は、適当な場合には、関係司法当局が管轄権を行使する第三者に対し、知的財産権の侵害の発生を防止すること、特に、知的財産権を侵害する物品の流通経路への流入を防止することを目的として迅速かつ効果的な暫定措置をとることを命ずること。
(b) 申し立てられた侵害に関連する証拠を保全することを目的として迅速かつ効果的な暫定措置をとることを命ずること。
2 各締約国は、自国の司法当局が、適当な場合、特に、遅延により権利者に回復できない損害が生ずるおそれがある場合又は証拠が破棄される明らかな危険がある場合には、他方の当事者に意見を述べる機会を与えることなく、暫定措置をとる権限を有することについて定める。各締約国は、他方の当事者に意見を述べる機会を与えずにとられる手続において、自国の司法当局に対し、暫定措置の申立てに速やかに対応し、不当に遅延することなく決定を行う権限を与える。

 司法当局が知財権侵害の発生を防止するための措置を取ること、司法当局が双方の言い分を聞くこと(双方審尋主義)なく、権利者の言い分だけを基にして暫定的な措置を取る権限を定める(義務規定)。当局に都合の悪いサイトを閉鎖できたり、ニコ動、ツイッター等が遮断されるという不安は、この条文から来ているものと思われる。この規定は民事上の執行に関するものなので、基本的には権利者からの訴えを受けて司法が判断する部分である。権利侵害をしている著作物「も」UPされていることを理由に、社会のインフラにもなっているサービス全体のシャットダウンを司法が判断するかというと、そこまでの心配はしなくてよいのでは(というか、したくない)。だが、違法ファイル専用と訴えられたサイトや、権利侵害があると訴えられた特定のブログを、即座に一方的に遮断を命じることができるよう、締約国に義務づけていると解釈することはできる。初期のYouTubeのような法的にグレーな新規サービスは、やりにくくなるだろう。また、これは大きなくくりでは民事上のことなので、この規定を理由に司法の独自判断でサービスを遮断できるとは考えにくい。ただし、特定のサイトを閉鎖させるために当局の側から働きかけて権利者に訴えを起こさせるような、恣意的な運用が起きないように注意が必要だろう。

3 各締約国は、少なくとも著作権又は関連する権利の侵害及び商標の不正使用について、自国の司法当局が民事上の司法手続において、侵害の疑いのある物品、侵害行為に関連する材料及び道具並びに少なくとも商標の不正使用については侵害に関連する証拠書類の原本若しくは写しを差押えその他の方法で管理の下に置くことを命ずる権限を有することについて定める。

 侵害データが入っているパソコンなどを証拠保全のために司法の管理下に置くことであるが、これも民事の規定なので権利者の訴えが必要。著作権侵害事件で通常行われている手続きだといってしまえばそれまで。

5 暫定措置が取り消された場合、暫定措置が申立人の作為若しくは不作為によって失効した場合又は知的財産権の侵害がなかったことが後に判明した場合には、司法当局は、被申立人の申立てに基づき、申立人に対し、当該暫定措置によって生じた損害に対する適当な賠償を支払うよう命ずる権限を有する。

 侵害がシロだった場合に訴えた者に損害賠償を求められるようにすること。訴訟乱発に対する歯止め。

第3節 国境措置
第13条 国境措置の範囲
注 締約国は、特許及び開示されていない情報の保護がこの節の規定の適用を受けないことに同意する。

 第3節は侵害品の水際での取締について定めている。第3節の規定によって、インドなどで製造された安価なジェネリック医薬品を発展途上国に輸入することが困難になるのではという心配がある。@tentama_goさんの外務省への電話取材によると、この注によって国境措置からは特許は除外されているので、そういう心配はないとの説明があった。ただし商標は除外されていないので、ジェネリック薬にオリジナル薬の商標を付けている「偽薬」の場合は取締の対象になる。外務省説明では、ACTAはジェネリック医薬品の流通を阻害しないという見解であるが、途上国での医療現場を知っている人の意見を聞きたいところである。

第14条 小型貨物及び手荷物
2 締約国は、旅行者の手荷物に含まれる少量の非商業的な性質の物品については、この節の規定の適用から除外することができる

 空港の税関で手荷物の中から出て来た個人用の海賊版DVDなどを没収する法律を作らなくてもよい(可能規定)。日本ではすでに没収できるようになっている。この条項は「少量の非商業的な性質の物品」を除外することなので、PCやiPodの中のデータをサーチできるような立法を求めてはいない。また、全体についていえることだが、その条文が「物品」に限定した規定なのか、デジタルデータのような無体物を含んでいるのかの区別が重要。

第4節 刑事上の執行
第23条 刑事犯罪
1 各締約国は、刑事上の手続及び刑罰であって、少なくとも故意により商業的規模で行われる商標の不正使用並びに著作権及び関連する権利を侵害する複製について適用されるものを定める。この節の規定の適用上、商業的規模で行われる行為には、少なくとも直接又は間接に経済上又は商業上の利益を得るための商業活動として行われる行為を含む。

 刑事上の執行については「故意」「商業的規模」という縛りがかかっている。「商業的規模」の判定基準は明かでない。個人が行う違法ダウンロードのように「商業的規模」ではない侵害は、ACTAのいう刑事犯罪には含まれないと解釈すべき。

第25条 差押え、没収及び廃棄
1 締約国は、第23条(刑事犯罪)1から4までに定める犯罪であって自国が刑事上の手続及び刑罰を定めるものに関し、自国の権限のある当局が、不正商標商品又は著作権侵害物品であるとの疑いがある物、申し立てられた犯罪のために使用された関連する材料及び道具、申し立てられた犯罪に関連する証拠書類並びに申し立てられた侵害活動から生じ、又はその活動を通じて直接若しくは間接に取得された資産の差押えを命ずる権限を有することについて定める。

 これは第23条でいう刑事犯罪で、しかも締約国に刑罰の定めがある侵害に対して、「自国の権限のある当局」がPCなどを差押さえる権限を持つようにという規定である(義務規定)。ただし第23条でいう刑事犯罪は前述の通り「商業的規模」に限られるので、個人が行う小規模な侵害は問題にしていない。

第26条 職権による刑事上の執行
 各締約国は、第23条(刑事犯罪)1から4までに定める刑事犯罪であって自国が刑事上の手続及び刑罰を定めるものに関し、適当な場合には、自国の権限のある当局が捜査を開始し、又は法的措置をとるために職権により行動することができることについて定める

 小倉秀夫弁護士は、7月18日放送のJ-WAVE JAM THE WORLDで、これを著作権に当てはめると非親告罪化になると指摘した。「職権により行動」は確かにそのような解釈は可能であり、そうだとすれば日本の著作権法の原則に大きな変更を求めるものになる。ただし捜査当局が「職権により行動」するのは「商業的規模」の侵害に限られる。また、文末が「できる(may)ことについて定める(shall)」と構文がややこしいのだが、2012年7月31日の参議院外交防衛委員会での山本香苗委員に対する玄葉外務大臣の答弁では、この条項は非親告罪化にあたることを否定しなかったが実施の義務はなく、これを基に非親告罪化はしないとのこと。

第5節 デジタル環境における知的財産権に関する執行
第27条 デジタル環境における執行
2 1の規定を適用するほか、各締約国の執行の手続は、デジタル通信網における著作権又は関連する権利の侵害(侵害の目的のため広範な頒布の手段を不法に使用することを含むことができる。)について適用する。このような手続は、電子商取引を含む正当な活動の新たな障害となることを回避し、かつ、表現の自由、公正な手続、プライバシーその他の基本原則が当該各締約国の法令に従って維持されるような態様で実施される。

 ここに表現の自由やプライバシーへの配慮は観察できる。「その他の基本原則」が何を指すのか不明。刑事上の執行について規定している割には、人権への配慮は乏しい。

4 締約国は、自国の法令に従い、商標権又は著作権若しくは関連する権利が侵害されていることについて権利者が法的に十分な主張を提起し、かつ、これらの権利の保護又は行使のために侵害に使用されたと申し立てられたアカウントを保有する者を特定することができる十分な情報が求められている場合において、オンライン・サービス・プロバイダに対し当該情報を当該権利者に速やかに開示するよう命ずる権限を自国の権限のある当局に付与することができる。このような手続は、電子商取引を含む正当な活動の新たな障害となることを回避し、かつ、表現の自由、公正な手続、プライバシーその他の基本原則が当該締約国の法令に従って維持されるような態様で実施される。

 ACTAはネット監視を強化するといわれる一因になっている条文。プロバイダー責任制限法にある「発信者情報の開示」に相当する法整備を、締約国にうながしている(文末が「できる」なので義務ではない)。もちろん、法整備がされたらそれがその国のプロバイダーの義務になる。表現の自由やプライバシーへの配慮は、いちおうある。

5 各締約国は、著作者、実演家又はレコード製作者によって許諾されておらず、かつ、法令で許容されていない行為がその著作物、実演及びレコードについて実行されることを抑制するための効果的な技術的手段であって、著作物、実演及びレコードに係る権利の行使に関連してその著作者、実演家又はレコード製作者が用いるものに関し、そのような技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める。

 いわゆるリッピング規制。2010年10月にACTA大筋合意文書が公開された時点で、国内法が対応できていなかった(おそらく)唯一の部分。2011年1月の文化審議会著作権分科会の報告書には、保護手段を「技術」ではなく「機能」で評価し、DVDの暗号はアクセス・コントロールとコピー・コントロールの両方の「機能」を持つので規制の対象にすべきとある。この部分でACTA大筋合意内容が言及されている。ただし、2011年1月の著作権分科会報告書と2012年10月施行の改正著作権法でのリッピング規制との関連については、その間の経過について精査が必要だと考えている。

第5章 制度上の措置
第36条 ACTA委員会
2 委員会は、次のことを行う。
(a)この協定の実施及び運用について見直すこと。
(b)この協定の発展に関する事項について検討すること。

 協定の実際の運用はACTA委員会が行う。だが、これまでの経緯をみると、この委員会が民意を反映した動きをするとは思えない。

第38条 協議
2 協議(協議を行う締約国がとる特定の立場を含む。)は、秘密とされ、かつ、世界貿易機関協定附属書2紛争解決に係る規則及び手続に関する了解に基づく手続を含む他の手続においていずれの締約国の権利又は立場も害するものではない。

 ACTAはその交渉過程での秘密主義が厳しく批判されている。そのうえ今後の協議も秘密なのだという。交渉当事者たちの感覚を疑わざるを得ない部分。

第6章 最終規定
第39条 署名
 この協定は、2011年5月1日から2013年5月1日まで、交渉に参加した国及び当該国がコンセンサス方式によって同意する他のWTO加盟国による署名のために開放しておく。

第40条 効力発生
1 この協定は、6番目の批准書、受諾書又は承認書が寄託された日の後30日で批准書、受諾書又は承認書を寄託した署名国の間において効力を生ずる。

 ACTAがどうなれば発効するのか(逆にいえばどうなれば終わるのか)を規定している部分。2013年5月1日まで「署名のための開放」が行われている。この日までに署名した国のうち6カ国の批准等があれば発効する。これまでに署名した国のうち、周知の通りEUがすべて落ちることになった。メキシコ議会も批准を拒否したので、残っているのはアメリカ、オーストラリア、カナダ、韓国、シンガポール、日本、ニュージーランド、モロッコ(2012年9月時点)。これらの国に加えて2013年5月1日までに新たに署名した国々の中から6カ国が批准等すれば発効。そうでなければ6カ国集まるまで棚上げになる。ACTAの終了条件は、2013年5月1日までに署名した国について、各国の議会で次々と批准案を否決され、批准国と未批准国の合計が6カ国未満になった場合、ということになるか(要確認)。




その他、よくささやかれることについて。

ACTAを主導したのは日本なのか。

 ACTAは2005年のグレンイーグルス・サミットのときに当時の小泉首相が提唱したもの。その後の交渉は秘密裏に行われたので詳細は知れないが、ウィキリークスに流出したアメリカ公電によると、日本の当事者たちは交渉の主要な部分をアメリカに委ねていたことがわかる。当該リーク文書の邦訳は、ここ(@fr_toenさんブログ)にある。ACTA交渉の実態を知るうえで一級の資料であり必読。

ACTAは秘密交渉だったのか。

 欧州でもっとも批判されたのがこの部分。ACTAは2007年1月から集中的な協議に入っていた。節目ごとに、交渉の進捗についての短いステートメントは発表されていたが、詳しいことの公表はなかった。各国のウオッチャーがその内容を知るようになったのは、ドラフトが2008年5月からウィキリークスに順次流出するようになってから。条文原案(英語)が公表されたのは2010年4月。大筋合意文書(英語)の公開は2010年10月。原案公表後もオープンな議論を積極的に進めなかったという点で、秘密交渉との批判はまぬがれない。実際に欧州で騒ぎがはじまったのは、欧州各国の署名直後の2012年1月末から。日本語の仮訳が公開されたのは、署名から半年が過ぎ、国会に批准を求めることを閣議決定した後の2012年4月で、公の場で国民の代表に向けて説明が行われたのは、2012年7月31日の参議院外交防衛委員会がはじめてだった。

ACTAは法律なのか。

 国際協定は法律ではない。協定に合うように国内法を整備・運用しますと、国家として約束することである。

違法ダウンロード刑罰化はACTAに入るための準備だったのか。

 そういう証拠は知らない。上記のようにACTAは「商業的規模」の侵害しか刑事罰の対象にしていないので、違法DLのように個人レベルの軽微な侵害を問題にはしていないと考えている。したがって、違法DL刑罰化はACTAの要求水準を超えるものである。両者の背後にある思考パターン、つまり権利保護を強くしさえすれば経済と文化のためになるのだという思い込み、は共通しているといえる。

ACTAはTPPへの参加条件なのか。

 いまのところ、そうだと確信できる証拠を知らない。この説は斎藤やすのり衆議院議員がインタビューの中で述べているが(ここの開始後24分あたり)、「これはわたしの推測ですけども」と前置きしている。

ACTAが発効すると自由な言論が奪われるのか。

 日本国内に限っていえば、ACTAとは関係なく著作権を理由に自由な言論が奪われる状況がすでにあることに危機感を持つべき。流山市を批判するブログに市のHPから写真を「転載」した男が、名誉毀損などではなく著作権侵害で逮捕された2012年4月の事件が好例。正当な「引用」であっても、論文や著書への図版の引用許諾の際に権利者から文章の提出を求められ、内容が批判的だったりすると著作権を理由に図版の引用を拒絶されることは、珍しいことではなくなっている。

以上

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レコード会社の役員報酬が4人で10億円の件
つぶやきが反響をいただいているようなので、もう少し詳しく書いておくけど、
販売中の週刊誌の記事のことなので、詳細は差し控えることにご了解を。

参考にしたのは、「週刊朝日」7月27日号の
「「社長の年収」に大異変」(pp.25-31)という記事。

そこに、大企業の社長クラスの役員の「大金持ち」トップ100人が載っている。

表をざっと眺めていくと、某レコード会社(正確にいうとグループ企業の親会社)の
社長と代表取締役の肩書きを持つ4人の名前がランクインしていて、
社長が3億7,800万円。
4人の報酬総額を足すと、9億9,900万円になる。

これを妥当とみるかどうか。

2011年度の同グループの売上高は1,210億円。
業界全体の音楽ソフトと有料配信の売上高が3,500億円くらいである。

こういう比較が正しいかどうか、素人なのでわからないが、
高給で有名なカルロス・ゴーンは、ひとりで9億8,700万円もらっている。

日産自動車の売上高は9兆4,000億円。

売上高に対する割合でみると、
日産と比べてこのレコード会社の役員報酬の破格さがわかる。


レコード業界といえば、
違法ダウンロード罰則化の件で、
すっかりイメージが悪くなっているが、
副作用の多い罰則を国民に科すことを政治家に頼むよりも前に、
業界内での富の再分配を考えたらどうなの?
と思ったのは、ぼくだけでしょうか?

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違法ダウンロード刑罰化とACTA:彼我の差を考える
日本での違法ダウンロード刑罰化と、
EUでの「偽造品の取引の防止に関する協定」(ACTA)批准案否決という、
おりしも同時期に進みながら、対照的な結果になったふたつのことを比較してみたい。

違法DL刑罰化:音楽業界がロビイングし、自民公明が推進。民主は政局運営のために賛成。
ACTA:推進したのは(たぶん)、日本政府の知的財産推進本部、経産省、外務省あたり(責任が国民には不明)。それとアメリカの通商代表部。

違法DL刑罰化:議員立法で考えられていたが、最終段階で閣法の著作権法改正案の修正で対応することを密室で決定。
ACTA:2007年から4年かけて秘密に交渉していた。最終合意案(英語)が公表されたのは、署名のための開放(2011年5月)の時期。日本語仮訳が公表されたのは、外相が署名し国会に承認を求める閣議決定をした後の2012年3月。

違法DL刑罰化:密室合意は2012年4月頃か。衆議院ではほとんど議論なし。参議院では参考人招致をしたが、最初から結論ありきの儀式だった。(参議院文教科学委員会で批判的な質問をした民主党議員は、採決の直前に委員を解任されたようだ。)衆議院、参議院とも圧倒的多数の議員が賛成して成立。
ACTA:EUの5つの委員会で議論し、すべてACTAを拒否。全体議会でも478対39の圧倒的な差で否決。

違法DL刑罰化:国民からメール、電話等で議員への質問や意見が多数送られたようだが、実数は不明。
ACTA:EUでは2012年1月の署名の直後から反対運動が急拡大。市民から議員へ、膨大な量のメール、電話、手紙などがあったとの情報あり。全土で3度の大規模な一斉デモ。反対嘆願署名数は280万か。

違法DL刑罰化:大手メディアでの扱いは小さかった。
ACTA:EUでの否決については、欧米の大手メディアが報道し、その後も解説記事がつづいている。日本ではNHKがはじめて問題点に言及した報道をした。日経新聞も小さく報道したが、EUなんか参加しなくても発効するよという趣旨。他の日本の大手メディアは、現時点では報道していない模様(いま外国に居るので詳細は不明)。


けっきょく、ネット規制の法案と協定で、日欧で生じた差の原因は何かと考えていくと、
基本的なことなんだけど、デモや意見送付など、
議会や議員に対して市民が直接に意志を伝える行動を、
どれだけ取ったか、取らなかったか、
どれだけ早く動いたか、動かなかったかが大きいようだ。


著作権がらみでは、TPPにともなう非親告罪化や、
違法とする対象の拡大、さらなる厳罰化を求める動きが、
これからどんどん出てくるだろう。

ACTAの日本での批准もこれから。

違法DL刑罰化と同じ轍を踏まないようにするには、
どうするべきなのか、
規制強化に危機感を持っている、全員に与えられた課題だ。

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ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)はホントの所、何が問題なのか
「偽造品の取引の防止に関する協定」(ACTA)については、
過去のエントリでも触れてきた。

日本ではわからないACTA:欧州各国での抗議デモについて
ACTAに対するEUの懸念とは

今週4日にもEU議会でACTA批准が否決されそうで、
もしそうなったらこの問題含みの協定にとって、
ひとつの大きな節目になると思うから、
ACTAの問題点について、現時点での考えをまとめておく。

ぼくはやはり、徹底した秘密交渉の手法を取った、
プロセスのことは大問題だと思う。

ことに、ネットはひとびとの結びつきを決定的に変え、
統治のあり方そのものを変えてしまうかもしれないメディアであるので、
それを規制する交渉は、市民に対して徹底的に透明でなければならない。

その認識が、交渉の当事者に、またあえていえばマスコミにも欠けていた。

EUでのACTAに対する批判をみていると、
透明性の欠如を問題視したものが、とても多い。

EUのように、国民国家の枠を越えた統治の仕組みを作るには、
市民の意見を醸成し、それを政治に反映させるためには、
「ネットの自由」が確保されていることが、極めて重要。

そこを市民も議会もわかっているから、
どこかでこっそりまとめた協定で、しかもネット規制を含んでいるものを、
すんなりと受け入れるわけにはいかないのだ。


さて、この協定は日本ではいまだにほとんど報道されないのだが、
日本が提唱して進めてきた交渉で、
ネットがらみのことでいえば、
基本的には”概ね”現在の日本水準の規制を、
締結国に要求するものといっていいだろう。

だが、条文の日本語訳が公表されたのはすでに調印したあとで、
さらにいうなら、国会での批准を求めることを閣議決定したあとだった。

現在は日本語訳もネットで公開されているが、
文章は難解であり、個々の条文が何を意味しているのか、
説明がまったくなされていない。

ACTAをめぐっては、これに強く反対する方々からの、
さまざまな危惧や憶測がネット上を飛び交っている。

なかには少々心配しすぎではないかと思うこともあるが、
政府からの説明が何もないなかでは、
それは心配しすぎだと、言い切れる自信はまったくない。

ACTAへの危惧や憶測に答える責任は政府にあり、
そして政府以外にはない。

そんななかで、ぼくはちょっと視点を変えて、
ACTAでは何が語られていないかを、3点述べておきたい。

第1に、ACTAでは文化が語られていない。
これは文化の発展に寄与することを目的とする、
日本の著作権法の精神とは、まったく相容れないものである。
文化に関心がないのなら、著作権をいじってほしくはない。

第2に、ACTAでは人権が語られていない。
侵害に対する刑事上の執行など、
人権にかかわる規定があるにもかかわらず、
それへの配慮はなく、ひたすら産業を保護するものになっている。

第3に、「表現の自由」以外の自由が語られていない。
「表現の自由」は申し訳程度の記述はあるが、
それを尊重することを大きく打ち出してはいない。
通信の秘密や個人情報保護への配慮も弱い。
さらにこれから重要になってくるであろう、
「ネットでひとびとがつながり、情報をやりとりする自由」
については、むしろそれを規制する思想が感じられる。


ぼくはACTAを日本が批准して発効したとしても、
今すぐに大きな変化が訪れるとまでは思っていないが、
将来現れるであろう影響、
それもマイナスの影響は大きいと考えている。

ACTAは概ね現在の知財保護思想と水準を肯定しているため、
知財保護のあり方をネット時代に合わせて大きく変える必要が生じたとき、
ACTAが足かせになることは、じゅうぶん考えられる。

そのとき、ACTAは変革を求めない勢力、
すなわち既得権益者や政権にとって、
有力な武器になるだろう。
「国際協定で決まっているから」
という決まり文句で、
変革を妨げることが可能になる。

それは必ずや、来るべき未来の到来を遅らせ、
社会全体の厚生を下げることになるだろう。


それからもうひとつ。
協定によって誕生するACTA委員会によって、
運用や協定そのものが自律的に変化する危険性がある。
ACTA委員会は、たぶんまちがいなく、
市民の意見よりも既得権益者の利益を優先し、
しかも民主的に選ばれた政権が、
実質的にどこまでコントロールできるかの保証もない。
むしろそこで決められたことに、
国内法が従わされるような状況が生まれる。

それを民主主義の危機といわずして、何だろう。

まあ、それをいえばTPPでささやかれている知財保護は、
ACTAよりももっときつい。

TPPもACTAと同様に、秘密交渉で進められているのは周知のとおり。

ACTAをすんなり通すことは、
民意を反映する必要のない秘密交渉の、
成功例を重ねてしまうことになり、
TPPのことを考えると、それはまずいだろうと思う。

もっとも、EUがACTAを否決すれば、
秘密でやってきたことが、最後にはすんなりとはいかなかったことになり、
こういう手法の限界を示すことができる。

もちろん、それはACTAを主導した日本外交の大失点になるのだが、
報道されることがなければ、そのことに気付く国民は少ない。

(ACTA批准については4月17日に国会に提出され、参議院の先議になっていますが、国会情勢が影響してか、どの委員会にも付託されていない状態が続いています。)

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国会での著作権法改正論議雑感
祭りが過ぎ去って、怒りと不安と無力感が残っている。
とはいっても、これで終わりじゃなくて、
違法ダウンロード罰則化が、恣意的な捜査に悪用されたり、
一罰百戒の見せしめ犠牲者を出さないように、
さらなる規制を権利者が求めてこないか、
たゆまず注視しつづける必要がある。

衆議院で自公がDL刑罰化を閣法にねじ込む方法は、
ただひとり反対していた、共産党の宮本議員が事前に伝えていた通りになった。
自公の協力が欲しい民主が、中身を問わず、
質疑ほとんどなしで合意するという、
密室政治の典型が、白日の下にさらされた。

参議院文教科学委員会では、多少は審議らしいものはあったが、
内容は記録に残っているとおりである。

民主党の森ゆうこ議員だけが、
反対の立場から本質を突いた質問をした。

提案者の、ある衆議院議員の答弁ぶりが非難されているが、
ぼくには、ほんの少し、彼女に同情する気持ちがある。

自分が何を提案しているのか、この議員がよく理解していなかったろうことは、
修正案の説明の、しどろもどろさから伺える。

ぼくのまったくの妄想的ストーリーをいってみると、
先生は伝統文化のひとだし、著作権法は文化の法律だから提案者になってよと、党から言われる。

ネットには詳しくないけど、文化のためになるのならと提案者に名前を連ねる。

よく知らない言葉がならんだ修正案を衆議院の委員会で読み上げる。

聞いたこともない有権者から、反対のメールや電話が事務所にじゃんじゃん届く。

参議院委員会で民主党の委員にぶつけられ、答弁に困る。
(ババを引かされたことを知る。)
(繰り返していうが、これはまったくの妄想・妄言・ファンタジーです。)

それに対して、参議院文教科学委員会での、
自民・公明の委員からの質問とそれに対する答弁は、
入念に打ち合わせがされていて、反対派の懸念もいちおう取り込んだ内容になっていた。

諸派の委員からの質問については、いやまあ、何というか……というのもあったかな。

午後の参考人質疑で、賛成派で出て来た音楽業界寄りの方々は、
緊張していたのか、かなりの論理矛盾を起こしていたり、
ネットユーザーを総会屋にたとえるようなことを言ったりしていた。

わが国の知的財産推進計画は、こういう方が作っていると知って、
暗澹たる気持ちになったのは事実。

日弁連からの参考人は、同連合の立場を繰り返して述べておられた。

なかでも、個人的に一段と評価を上げたのは、津田大介氏かな。
この問題にかんする深い知識に基づいた、理路整然としつつも説得力のある語りに、
この人物の凄さを改めて感じた。

党の方針にさからって反対質問をした森ゆうこ議員は、
委員会での採決前に「半強制的に」(本人ツィッター)委員を解任され、
全会一致で参議院委員会通過となった。

上層部に逆らう者は止めてもらうという悲哀を、
自分に重ねた組織人のひとも多いのでは。

前日に激しい反対質問があったのに、なぜ翌日に全会一致で賛成になったのか、
議事録をかなり注意深く読まないと、わけがわからないことなので、
ネットに裏事情の記録を残しておくことは、「知る権利」の点で大事なこと。

参議院本会議で反対したのは、
民主党:森ゆうこ
共産:井上哲士、市田忠義、紙智子、田村智子、大門実紀史、山下芳生
社民:福島みずほ、又市征治、山内徳信、吉田忠智
無所属:糸数慶子
の12名のみ。


最初にもいったように、まだ終わってはいない。
この改正が悪用されたり、見せしめの犠牲者が出ないよう、
注視していかなければならない。

個々の議員のことを、つぎの選挙まで記憶しておくことも大事。
音楽業界に対する何らかの意思表示も、
消費者は行っていなかければならないのでは。

この改正で刑罰を科すターゲットは、特別なひとじゃない。
ごく普通のことのようにネットで音楽や動画を楽しんでいる、ぼくたちなのです。

テーマ : 政治
ジャンル : 政治・経済

違法ダウンロード刑罰化、衆議院文科委員会での質疑に対する疑問
本日(15日)違法にアップロードされた音楽・映像ファイルを、それと知りながらダウンロードする行為に刑事罰を科す著作権法改正案が衆議院を通過した。午前の文部科学委員会での下村博文委員(自民党)の質問と、それに対する政府答弁について感じた、ぼくなりの疑問を書いておく。「良識の府」である参議院で、これらの疑問に答えが出されることを期待しつつ。(6月16、18日更新)

下村委員:違法DLを放置するのはネット社会の健全な発展を阻害する。
平野文科大臣:被害が6000億円を超えていて、深刻な状態と認識。
(疑問):音楽産業がいう被害額は推定方法に大きな問題があり、被害が過大に算出されている。それを検証もしないで、業界の言いなりになって国会の場で引用するのは大いに問題である。(参考→「音楽違法ダウンロード被害額7000億円の怪」


下村委員:検閲、捜査権の拡大を懸念する声があるが、捜査は裁判官の令状が必要なので批判は当たらない。
警察庁局長:捜査は法と証拠に基づいて適正に行う。
(疑問):侵害の嫌疑を構成する要素が不明。法制定の前に慎重な議論が必要である。


下村委員:違法・適法の区別ができないという声があるが、故意犯のみが処罰の対象であるので区別できない場合は罪に問われない。エルマークを浸透させるので、法が施行されるまでに区別は容易になるのでは。
高井文科副大臣:政府としてもエルマークを普及させるよう支援する。
(疑問):「よくわからないけど違法化かも」と思いながらDLする行為が「未必の故意」になる恐れが生じ、違法行為の抑止効果よりもネットでのコンテンツ利用全体の萎縮効果のほうが大きいのでは。エルマークは運用が開始されてから4年が経つが、ほとんど認知されていない。違法・適法の判断を一社団法人の認証に委ねるようなことで政府としていいのか。同マークを発行する日本レコード協会の利権につながる恐れがある。(DL刑罰化を国会議員に対して強く働きかけたのは、同協会である。)現状では海外サイトには適用できない。違法アップローダーがエルマークを偽造することも十分考えられ、実効性は薄い。


下村委員:諸外国の罰則規定の状況は?
文化庁次長:違法DLについてはアメリカ・ドイツでは刑事罰の対象。現実に刑事罰の対象になった事例は承知していない。
(疑問):アメリカは広汎なフェアユースを認めているなど、日本の著作権法とはまったく異なる制度設計になっているので、単純な比較はできない。ドイツは刑事告訴の乱発を招いて大混乱を起こしている。(参考→P2Pとかその辺のお話@はてな


下村委員:抑止力によって業界が健全に発展するよう、刑罰化の修正案を出したい。
(疑問):違法行為をさせないためには、刑罰化以前に、教育と広報を十分に行うべき。

テーマ : 伝えたいこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

違法ダウンロード刑罰化に民自公が突き進むことに、なぜ違和感があるのか
違法ダウンロードに刑事罰を付ける、著作権法改正の修正案の件、
のびのびになっていたけど、
いよいよ13日にも衆議院文部科学委員会で採決される雲行きになっている。

これになぜ違和感があるのか、感情的な面を考えてみた。

どうみても、自公が音楽業界の言い分だけを鵜呑みにして、強引に進めようとしていること。
どうみても、国民からわき上がっている疑問の声を、多くの議員は聞こうとしていないこと。
どうみても、ネット住民の意見を、多くの議員は軽く考えていること。
どうみても、消費税法案を通すために自公の協力が欲しい民主が、改正の是非を問わずに賛成しようとしていること。

伝えられるところによると、
文科委員会では著作権法改正案(違法DL刑罰化抜き)の質疑終局後に、
違法DL刑罰化の修正案が出され、審議抜きで採決、
民自公の賛成多数で可決というシナリオが出来ているらしい。

本当にその通りになったら、委員会は茶番もいいところだ。
密室談合で法改正を決めていますと、国民の前にさらけだすつもりなのだろう。

国会議員のみなさん、あなたたちが何をするのか、有権者はみていますよ。

(それにしても、自公がなぜここまで「前のめり」なのかが、よくわからないなあ。)

テーマ : 伝えたいこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

ジョン・ウィリアムズ!
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今シーズンのボストン・ポップスの目玉、
ジョン・ウィリアムズによるフィルム・ナイト。

80歳記念のコンサートでウィリアムズが自らタクトを振って、
彼の映画音楽の数々を聴かせてくれるとあれば、
行かないという選択肢はありえない。

どうにかチケットをゲットし、
「ジョーズ、スター・ウォーズ、インディー・ジョーンズ、E.T.メドレー」
「スーパーマン」
「オリンピック・ファンファーレ」
など、夢のようなコンサートを堪能した。

元気でいてくれて、ありがとう、という感じだ。


ウィリアムズの音楽は、
娯楽商業映画と結び付いたからこそ存在し、
それゆえに不当に低く評価されるきらいがある。

このハリウッドのベートーベンが、
いずれクラシックと呼ばれる日が来るのだろうか。

もしも、パブリック・ドメインになることがクラシックの一条件だとするならば、
あるいは、その日は永久に来ないかもしれない。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

ACTAに対するEUの懸念とは
5月31日に、EUの三つの委員会、
Civil Liberties Committee (LIBE)
Industry Committee (ITRE)
Legal Affairs Committee (JURI)
で、日本発の協定であるACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)に関する投票があった。

日本では報道されないので、その名もほとんど知られていないし、知ったところで、
偽造品を取り締まる協定?結構なことじゃない?
程度にしか思われていないようだが、
EUでは今年はじめあたりから、広い市民層を巻き込んだ大騒動になっている。

これまでの経緯については、ここを参照。

さて、その三つの委員会での投票は、すべてACTAを否定する結果になった。

EUの市民や議会は、いったい何を懸念しているか、軽くまとめておきたい(情報源はここ)

LIBEでは、ACTAに賛成1、反対36、欠席21。
反対理由:
・ACTAは、EU Charter of Fundamental Rightsにそぐわない。
・偽造品への対策は必要だが、それは個人の生活を尊重し、個人情報を保護するものでなくてはならない。
・ACTAはその点で、多くのあいまいな部分を持っている。
・インターネット・プロバイダーは、ネットを取り締まってはいけない。

ITREでは、ACTA賛成6、反対25。
反対理由:
・ACTAは知財権のバランス、ビジネスの自由、個人情報の保護、情報交換の自由を損なう。
・ACTAの知財へのアプローチは、各セクターの特質を無視しており、欧州の企業に法的な不確定さをもたらす。

JURIでは、ACTA賛成2、反対10、欠席2。
・Gallo議員から提出されていたACTA賛成意見(欧州議会のLegal Serviceに賛成意見がある、ACTAは新しい知財権を創らない、など)を否決。

数からいえば、ACTA反対派の圧勝である。

今後の予定だが、6月9日には欧州全体で、再び大規模なデモが企画されている(日本でもやるようだ)。
その後、ACTAを所管するInternational Trade Committeeが6月21日にある。
それを受けて、7月初旬の全体会議でEUとしての最終的な意志決定がなされる。
そこでも否決されたら、EU構成国のすべてがACTAに参加しないことになる。
(ACTA自体は、どこかの6ヶ国が批准したら発効する。)


ぼくはいま日本にいないからわからないのだが、
こうした動きを日本のマスコミは、まだ伝えていないのだろうか。
日本はACTAの提唱国なのだから、
EUでの相次ぐ拒絶の動きに対して、
官邸や外務省や経産省は、何か説明をしたらどうかと思うのだが、
そんな動きは聞こえてこない。
(あるいは例によって、水面下でやってるのかもしれないが。)

日本は野田政権が昨年署名し、国会での批准を待つ段階に来ている。
もともと自公政権下で進められた交渉だし、待ったをかける有力な政党は、いまのところなさそうだ。


ACTAに拒否反応が起きている最大の理由は、
それが秘密交渉で進められてきたことにある。

市民生活に密接にかかわる領域で、ルールメイキングに透明性が欠けるとどうなるのか。
少なくとも欧州での今回のケースについては、手痛いしっぺ返しを受けているといっていいだろう。

TPPも、違法ダウンロード刑罰化もそうだが、
秘密でルールを決めるようなやり方は、
この世界ではもう通用しなくなるんだということを、
みんなが学ぶきっかけになるといい。

テーマ : 伝えたいこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

違法ダウンロード罰則化 拙速な刑事罰化に危うさ(記事転載)
以下は、共同通信社からの依頼で執筆し、4月20日に配信していただいた記事です。同社の了承が得られましたので、ここに転載します。確認できた範囲では、4月21日の山陽新聞と、同29日の高知新聞に掲載されています。(一部に誤謬があったので6月2日に訂正しました。)




「違法ダウンロード罰則化 拙速な刑事罰化に危うさ」
山田奨治

 民主党や自民・公明両党が、今国会で著作権法を改正して、ネットに違法にアップロードされた音楽・動画ファイルだと知りながらダウンロードした者に、懲役などの罰則を科すことを検討している。「違法ダウンロードはCDやDVDを盗むのと同じで、窃盗には刑事罰がある」というのが改正論者たちの論理だ。

 だが、この論理には無理がある。著作権は、土地や物になぞらえて考えられた疑似的な所有権で、それら有体物の所有権ほど強いものではない。著作物の利用がもたらす便益と、著作権者保護のバランスのうえに認められた権利だ。したがって、保護が強くなり過ぎる場合は、著作権は制限される。

 いまの著作権法では、仮に違法なファイルのダウンロードでも、私的使用のためならば刑事罰までは科さない原則をとっている。仮に捜査するとなれば、個人が所有するパソコンに保存されたデータや通信記録を調べる必要があり、家庭の中にまで公権力が強く及ぶ危険性を避けるための配慮といえる。著作権を侵害したファイルのダウンロードが2010年に違法化された際も、法改正の妥当性を検討した文化審議会の小委員会で、その原則が確認されている。

 それから2年しかたっていない。10年の法改正では、違法なアップロード行為に刑事罰が科されることにもなったが、効果はどうだったのか。違法行為で大きな損害を受けていると主張する、音楽などのコンテンツ産業の売り上げは変化したのか。そういった点の検証結果を明らかにせず、今度はダウンロードに刑事罰を科そうとするのは拙速というしかない。

 今回の法改正案には危うさがある。憲法で保障された「通信の秘密」を侵さずに捜査できるのか。警察の権限が強くなりすぎはしないか。合法・違法双方のファイルが混在するネットから無意識にダウンロードした個人、とりわけ青少年の責任をどこまで問えるのか。何が違法か分からない状態になれば、消費者が合法なネットサービスの利用までも敬遠しないか。

 今回の問題点は、法改正に向けて政界が動きだすに至る道筋が不透明で、音楽・映像業界の意向のみが反映された形になっていることにもある。議論が各党内や政党間の水面下の交渉で進められ、国民に対する説明が何もないまま法改正されようとしている。

 違法ダウンロードによって、コンテンツ業界に被害が出ていることは確かだろう。しかし、そういった行為がはびこる背景には、音楽や映像を視聴する若者らのコンテンツ利用形態が根本的に変化していることがある。限られた所得の範囲でより多くの作品に接し、デジタル機器を駆使した二次創作をも楽しみたい。例えば、そんな要望に応えるネットサービスを合法的に提供できないのか。政治家も業界も、「違法は違法」と切り捨てるのではなく、消費者との対話の回路をもっと開いてはどうだろうか。

テーマ : 伝えたいこと
ジャンル : 学問・文化・芸術

違法ダウンロード罰則化についての記事が載りました
共同通信さんからの依頼で書いた
「違法ダウンロード罰則化 拙速な刑事罰化に危うさ」
という記事が、21日の山陽新聞さん朝刊(総合・国際面)に載ったようです。

他の地域の新聞にも掲載されているかと思うのですが、
どこにいつ載ったかは、書いたひとにも、すぐにはわかりません。

共同さんの厳しい校正を経て、
わかりやすくするための磨きがかかった文章なので、
研究者的な感覚からいうと、
すべてぼくが書いた文章だと言い切るには、少しためらいを感じますが、
ぼくの意見であることは確かです。

違法DL=万引き論への批判、家庭内に公権力が及ぶことの危険性、
2年前の法改正の効果を検証していないこと、
コンテンツ消費の形態が変化しているのに業界が対応できていないこと、
などを書いています。

文章を転載してもよいような気もするのですが、
やっぱりよくないような気もするので、
誠にご面倒ですが、お近くの図書館などでご覧下さい。

掲載情報はわかったものから順次、お知らせします。

残念ながら、「47NEWS」のサイトには掲載されないそうです。

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テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

音楽の違法ダウンロード罰則化:さて、ぼくたちにできることは
日本を離れて研究生活を送っているあいだに、
わが母国の著作権法に、
またもやとんでもないことが進んでいる。

それは、著作権法を改正して、
無断でアップロードされた音楽ファイルを、
それと知りながらダウンロードする行為に、
2年以下の懲役、200万円以下の罰金、
またはその両方の罰則を科すというもの。
(現在は違法ではあるが、罰則無し。)

問題なのは、その決められ方だ。

議論を尽くして、各方面の代表の大勢が合意したことであるのなら、
ぼくはあえて問題にするつもりはない。

なぜこれを問題だと思うのかというと、
これは国会議員が音楽業界の意向だけを聞いて、やろうとしていることだからだ。

現在の著作権法では、違法ファイルをダウンロードしただけでは罰則はかからない。
その理由は、これに罰則までかけるのはやり過ぎだと、
法改正にかかわったひとびとが合意したからだ。

しかも、そう法律がそう変わったのは、ほんの2年ほどまえのことだ。
(しかし、その議論において、ユーザーの意見が徹底的に無視されたことについては、拙著『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』第4章をお読みください。)

違法ダウンロードに罰則がつかないことに、音楽業界は不満だった。
各方面から委員が出ている文化庁の審議会では自分たちの意見は通らないとみて、
杉良太郎氏を担ぎ出して、国会議員を個別に説得してまわる、
いわゆるロビングを積極的に行った。

それだけじゃなく、音楽業界は国会議員たちと
「日頃のお付き合い」をしていることも、想像に難くない。

その結果、一時はダウンロード罰則化を著作権法とは別の議員立法で
という動きもあったが、
こんどの著作権法改正案に盛り込むことを、自民・公明・民主が合意したという

閣議決定の段階での著作権法改正案では、ダウンロード罰則化は入っていなかったのだ。
閣議決定後の法案が議員立法で修正されることになるようだ。

どこでどうなったのか、国民にはわからないまま、
音楽業界の意向の沿った法改正が、いまなされようとしている。
(彼らが示した根拠のあやしさについては、ここを参照。)

違法とされることを(音楽業界のいいぶんでは)「多くの」音楽ユーザーが行うのは、
ユーザーが嗜好する音楽消費の形態が、
構造的に変化しているからに他ならない。

音楽業界は、消費者が何を求めているのかに耳目をふさぎ、
法律を変えてまで、旧態然としたビジネスモデルに、
ひたすらしがみついているようにみえる。

それは結局、業界の変化を遅らせ、
業界全体が時代遅れになって、
消費者から見捨てられていくことを、加速させるだろう。

国会議員にしても、著作権法などという、
さして票になりそうもないことには関心が薄く、
ここは資金力のある団体の陳情をきいてやろうという打算もあるだろう。

ぼくたちにできることは、何だろう。

この改正に賛成ならば、ほっておいても法改正されそうな勢いだ。
もし反対ならば、津田大介さんが勧めているように、
地元の国会議員に電話して意見をいうのもいいだろう。

賛成でも反対でも、これが大事な問題と思うのなら、
この改正を積極的に進めている政党と政治家を、
つぎの選挙のときまで覚えておくことだ。

個人の記憶力には限界があるから、
ネットのなかに「集合知」として蓄えておくのもいいだろう。

そして選挙のときに、ぼくたちにできる、
もっとも正当な意思表示を行うことだ。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

大学教科書の返品:ハーバード生協のやり方
今月からハーバード大学に来ていて、
1年間こちらにいる予定である。

さて、ハーバード生協の書店に、
ちょっとびっくりのシステムがあることを知った。

それは、教科書指定されている本は、
買ってから3日以内なら、返品可能ということだ。

ただし、本を損ねていないことが条件。

いまどきのことだから、
買った教科書を折り目を付けないようにして自炊して、
終わったら返品ということも可能だろう。
(PDF化ができるコピー機は、そこらじゅうにある。)

ハーバードの学生は裕福な家庭の子が多いし、
ある程度モラルもあると思うので、
そんなことをする不埒なやつは、いないのだろう。

だけど、勉強をしたいけどお金がない学生にとっては、
教科書を自炊して返品というのは、魅力があるだろう。

お金がないから教育を受けられない、
教育を受けられないからお金がないという、
貧困が世代を越えて固定してしまうことから逃れるためには、
教科書の自炊→返品や、自炊ファイルの交換などは、
必要悪だといえるかもしれない。

ちなみに、ベトナムの某大学の近くには、
教科書のコピーを格安で売る店があった。


学期が終わったら教科書を最高50%の値段で買い取るという仕組みも、
ハーバード生協にはある。

日本の大学生協も、見倣ってみてはどうかと思うが、
きっと出版界がだまっちゃいないやろうね。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

音楽違法ダウンロード被害額7000億円の怪
今日のエントリは論文スタイルでいくよ。

3月9日の参議院決算委員会で、公明党の松あきら議員が、音楽等の違法ダウンロードに刑事罰を課す(現在は刑事罰なし)よう質問した。かねてから、業界団体が(著作権法改正ではなく)議員立法を求めてロビングしていたことを受けての発言であることは、状況からみてあきらかだ。

松議員は質問で、違法ダウンロードの被害額は7000億円だと、しきりに繰り返していた。これをなんとかすれば、税収が増えるという意味のこともいっていた。(違法ダウンロードの利用者の多くは若者だともいっていたので、これは若者からもっと税金が取れという意味になりかねないのだが、そこは突っ込まないことにする。)ここでは、この7000億円という数字を、検証してみたい。

日本の音楽産業の市場規模は、1兆6000億円くらいである。7000億円の被害があったとしたら、業界にとって大きな損失であることは理解できる。だが、この7000億円という数字は、素直に受け取ってはいけない。

実は被害額の推計にあたっての問題点はかつてもあったことで、それについては拙著『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(116-118頁)でも論じた。基本的には推計方法の問題点は変わっていないのだが、今回は多少違っている部分もあるので、あらためて論じたい。

まず、松議員が根拠としているのは、日本レコード協会が実施した、2011年度「音楽メディアユーザー実態調査」「違法配信に関する利用実態調査」である。

第1の問題点として、同調査での被害推定額は6683億円なので、それを7000億円だという松議員は、ここですでに310億円あまりを自主的に「加算」していることがわかる。

第2の問題点は、調査でのサンプルの選び方である。ベースになっている調査は、音楽の利用実態を調べるための広汎なもので、ウェブアンケートが用いられている。まず、ひとは興味のないアンケートには答えないものだ。したがって、「おれ、音楽なんて聞かねえよ」というひとは、サンプルに入ってきにくい。さらに、ウェブアンケートという方法では、どうしてもネットとの親和性が高いひとがサンプルになってしまう。したがって、この調査のサンプルは、日本国民の平均的な音楽利用実態、とりわけ音楽ダウンロードの利用実態を反映するものではない。さらにいうならば、この方法ではダウンロード利用率が実際よりも高く出てしまう。

第3の問題点として、無料ダウンロードと違法ダウンロードの区別をあいまいに扱っている。アンケートには、正規に配信されている無料ファイルを落とすのは違法ではないと但し書きをしたようだが、そもそもユーザーが違法と適法をきちんと見分けているとは思えない。無料だから違法かな、と思っても実は適法というケースだって相当あるだろう。

第4の問題点として、違法ファイルの1ヶ月あたりの平均ダウンロード数の推計がおかしい。先頃、大学生が平均の意味を理解できていないという調査結果が話題になった。ひとびとが平均の意味を理解していないことを利用して、都合のいい結果を出してやろうという姿勢が垣間みえる。

たとえば、「動画配信サイト」から違法ファイルをダウンロードした数は、ユーザーひとりあたり1ヶ月平均で32.6ファイルとはじいている。これは妥当だろうか?データの分布をみてみよう。

3ヶ月に1ファイル以下: 21.0%
2ヶ月に1ファイル:     7.6%
月に1ファイル:      19.7%
月に2~5ファイル:    30.3%
月に6~10ファイル:   11.9%
月に11~20ファイル:   4.9%
月に21~30ファイル:   1.8%
月に31~50ファイル:   1.4%
月に51~100ファイル:  0.5%
月に101ファイル以上:   0.9%
サンプル数:1507

この分布で、1ヶ月平均が32.6ファイルというのは、かなり不自然だ。詳しいことは公表されていないのでわからないが、「月に101ファイル以上」をダウンロードするという0.9%のなかに相当なヘビーユーザーがいて、それが平均値を高い方へと強くひっぱっているとみるべきだろう。「動画配信サイト」以外の「P2Pファイル共有ソフト」「掲示板などのサイト」等の利用者の平均ダウンロードファイル数と分布を比較しても、すべてにおいてまったくおなじ問題が読み取れる。

ここでいうヘビーユーザーは、特別に多い数字を回答したひとか、あるいは無料だからこその「お試し」聴取を猛烈にしているユーザーだと考えられる。平均を求めるうえでは、検定のうえそのような「はずれ値」を除去しないと、集団を代表する値としては不適切である。もちろん、0.9%にも満たないヘビーユーザーを除けば、1ヶ月平均のダウンロード数の推定値は、大幅に(たぶん10分の1程度に)減るだろう。

最終的な被害額は、(1)12~69歳の日本の人口 × (2)ダウンロード利用率 × (3)平均ダウンロードファイル数 × (4)1曲あたりの平均価格 で計算している。前述のとおり、この調査方法では(2)(3)が実際よりも高く出る。

ということで、音楽の違法ファイルのダウンロードによる実際の被害額は、7000億円の数10分の1くらいとみるのが妥当だろう。これは松議員が自主的に「加算」した310億円あまりよりも、たぶんずっと少ない数字である。

それから大事なこととして、違法ファイルは無料だからこそダウンロードされるのであって、有料化すれば被害額がすべて収入に変わるというのが幻想であることは、たいして考えなくてもわかることだ。

この調査は、著名な調査会社が受託したもののようだ。彼らはプロなので、ここで書いたような問題点はわかっているはずだ。だが、依頼者の性格からして、被害額を多く出すことが望まれていたのだろう。調査会社は依頼者の意向に沿った数字を出して、依頼者はそれを使って国のルールを変えようとしている。

だが、こんな数字が国会の場で、まことしやかに披露され、それが根拠のひとつになって、国のルールが変わってしまっていいはずがないと、ぼくは思う。

とはいっても、問題はお金ではなく、ルールを守るよう若者を「教育」するのが、「大人」の役目という意見もあろう。だが、それをいうならば、まず問われるべきはルールの決め方だろう。それならば、根拠の危うい数字を無批判にふりかざしてルール・メイキングをするべきではない。いまの著作権法では、違法ファイルをダウンロードするだけで、たしかに違法にはなっているのだが、そのルールがどう決められたのかについては、『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(第4章)に詳述したので、この問題に関心のある方には、ぜひともお読みいただきたい。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

日本ではわからないACTA:欧州各国での抗議デモについて
BBCでは報道があったが、
やはり日本の大手メディアは速報しなかったようなので、
内容が生煮えで誤解があるかもしれないが、ここに書いておく。

昨日(2月11日)に、欧州各国でACTAに抗議する一斉デモがあった。

ACTAは、Anti-Counterfeiting Trade Agreementのことで、
日本では「模倣品・海賊版拡散防止条約」といっていたが、
いまは「模造品の取引の防止に関する協定」という仮訳になっている。

これは2005年のグレンイーグルス・サミットで、
日本の小泉首相が提唱した枠組みなのだ。

その後、日本、豪州、カナダ、EU、韓国、メキシコ、モロッコ、ニュージーランド、シンガポール、スイス、米国のあいだで極秘のうちに交渉が進んだ。
日本は提唱国の位置づけだが、実際の交渉は米国が先導したとみられる。
日米が共同でまとめた交渉といえるだろう。

昨年10月1日に豪州、カナダ、日本、韓国、モロッコ、ニュージーランド、シンガポール、米国の署名式が日本で行われた。
また、今年1月26日にはEUとその加盟国のうち22ヶ国(EU、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、イギリス)が、やはり日本で署名した。

日本では署名式があったことくらいは、小さなニュースになったが、
そもそもこんな交渉を日本と米国が主導し、野田政権が署名まで済ませていることを、
日本のほとんどのひとは知らない。

ところがEUでは、
ネットの自由を縛る恐れのある協定に、
国民への説明なしに勝手に署名したというので、
1月26日以後、抗議運動が盛り上がっていった。
そして、これまでで最大の一斉デモが、昨日あったというわけだ。

Facebookの情報では、抗議デモは約200都市で予定され、
40万人が参加を表明していた。
じっさいどのくらいの人数が参加したかの情報はまだ伝えられていないが、
最小限に見積もっても、4万人は極寒の街に繰り出したのではないかと、ぼくはみている。

仮に参加者が4万人だったとしても、残りの36万人はACTA賛成に回ったということではない。
欧州議会への請願サイトでは、これを書いている時点で反対票が220万に達しようとしている。

EUではこれから、各国議会と欧州議会での批准手続きに入りつつある。
ポーランド、チェコ、スロバキアは国内で猛反対が起きて、批准を保留しており、
ドイツも批准するかどうか、慎重に検討するようだ。

なかでもネットの自由を求める運動の象徴になったガイ・フォークスの面を付けてACTAに抗議するポーランドの議員たちの写真は、印象的だ。

EUでは、ACTAがEUで発効するためには、各国議会に加えて6月の欧州議会での批准が必要との立場を取っている。
そのため、欧州議会に向けて、反対運動がつづけられることになりそうだ。

ところが、ACTA自体は6ヶ国の批准等が完了すれば発効する。
たとえ、EUが参加してこなくても、6ヶ国の批准等は得られそうな模様だ。

とりわけ、米国はACTAを議会批准が必要なtreatyではなく、
大統領承認だけでいいexecutive agreementの扱いをしているのが特徴的だ。

日本は前述のとおり、すでに署名を済ませてあり、
たぶん今国会での批准を目指すのだろう。

さて、ここからが問題なのだが、
その日本国民のほとんどは、こういう協定の存在そのものを知らないということだ。
欧州でのデモのことも、メディアは伝えないし、
そもそも、協定文の公式日本語訳すら、いまだに公表されていない。

こうなるともう、政府はACTAのことを、日本国民には知らせまいとしていると思われてもしかたない。

ちなみに、EUでは加盟各国語での公式訳が公表されている。

ACTAについて早くから問題提起していたMIAUさんの有志による日本語訳はここにある。

条文の内容は、スリー・ストライク・ルール(違反を3回したユーザーをネットから閉め出すルール)などは最終合意からは削られ、
当初の懸念と比べたら穏やかなものになってはいるが、
全体として課題だらけの現在の著作権システムを肯定するものになっている。

ACTAが発効しても各国の法律を変える必要はないとはいうが、
日本に限っていえば、デジタル著作物への「アクセス・コントロール」の解釈を広くするための、法改正の後押しとして、ACTAが利用されている。

欧州市民を怒られた最大の原因は、
ACTAの交渉が極秘裏に進められたということにある。

こういったやり方こそが、ネットを武器にした新しい統治を模索している市民にとっては、最大の脅威なのだ。

おなじやり方が、TPPでも取られていることは、いうまでもない。


ACTAの提唱国である日本は、欧州市民に説明する義務があると思うのだが、
自国の国民に対してすら説明しない政府に、それを期待するのは望み薄だろう。

そのうえ、日本外交の影が薄いおかげで、
ACTAは米国が主導したものと思われているようで、
反ACTAが反日に結び付かなくてラッキーという、皮肉な一面もある。


さしあたり、日本国民は、今国会に出てくるであろうACTA批准案に関心を持つべきだと思う。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

ACTA:日本政府はanonymousの標的になるか
アメリカ議会でのSOPAとPIPAの採決が見送られるとともに、
「模倣品・海賊版拡散防止条約」(ACTA)も、
両法案とおなじくらい問題含みだということが、
だんだんと知れ渡ってきたようだ。

有名なハッカー集団のanonymousが、
ACTAに抗議する攻撃を準備しているともいう。

ポーランドの政府機関のサイトが、
攻撃によってダウンした
と伝えられている。

ACTAの提唱国である日本の政府機関が、
攻撃対象になったとしても不思議ではない。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

統計操作が目的?総務省の違法ダウンロードおとり調査の事前広報
P2Pによる違法ダウンロードの実態を調べるために、
総務省がおとりのファイルを流すそうだ。

それも調査開始のまえに、わざわざ広報してくれているが、
そんなことをすると、おとりファイル探しのための違法ダウンロードを促すことになるうえ、
おとりファイルを興味本位で落とすひとが続出して、
違法ダウンロード利用者数が水増しされる結果になる。

違法ダウンロードの数字を多く出すことが、
この種の調査の目的なのだから、
くれぐれも結果を無批判に信用したりしないように。

もし合法的なおとりを、それと知って落とすことができたならば、
それはまったく合法的な行為なので、
違法ダウンロードを利用したことにはならないことにも注意しておこう。

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