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音楽違法ダウンロード被害額7000億円の怪
今日のエントリは論文スタイルでいくよ。

3月9日の参議院決算委員会で、公明党の松あきら議員が、音楽等の違法ダウンロードに刑事罰を課す(現在は刑事罰なし)よう質問した。かねてから、業界団体が(著作権法改正ではなく)議員立法を求めてロビングしていたことを受けての発言であることは、状況からみてあきらかだ。

松議員は質問で、違法ダウンロードの被害額は7000億円だと、しきりに繰り返していた。これをなんとかすれば、税収が増えるという意味のこともいっていた。(違法ダウンロードの利用者の多くは若者だともいっていたので、これは若者からもっと税金が取れという意味になりかねないのだが、そこは突っ込まないことにする。)ここでは、この7000億円という数字を、検証してみたい。

日本の音楽産業の市場規模は、1兆6000億円くらいである。7000億円の被害があったとしたら、業界にとって大きな損失であることは理解できる。だが、この7000億円という数字は、素直に受け取ってはいけない。

実は被害額の推計にあたっての問題点はかつてもあったことで、それについては拙著『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(116-118頁)でも論じた。基本的には推計方法の問題点は変わっていないのだが、今回は多少違っている部分もあるので、あらためて論じたい。

まず、松議員が根拠としているのは、日本レコード協会が実施した、2011年度「音楽メディアユーザー実態調査」「違法配信に関する利用実態調査」である。

第1の問題点として、同調査での被害推定額は6683億円なので、それを7000億円だという松議員は、ここですでに310億円あまりを自主的に「加算」していることがわかる。

第2の問題点は、調査でのサンプルの選び方である。ベースになっている調査は、音楽の利用実態を調べるための広汎なもので、ウェブアンケートが用いられている。まず、ひとは興味のないアンケートには答えないものだ。したがって、「おれ、音楽なんて聞かねえよ」というひとは、サンプルに入ってきにくい。さらに、ウェブアンケートという方法では、どうしてもネットとの親和性が高いひとがサンプルになってしまう。したがって、この調査のサンプルは、日本国民の平均的な音楽利用実態、とりわけ音楽ダウンロードの利用実態を反映するものではない。さらにいうならば、この方法ではダウンロード利用率が実際よりも高く出てしまう。

第3の問題点として、無料ダウンロードと違法ダウンロードの区別をあいまいに扱っている。アンケートには、正規に配信されている無料ファイルを落とすのは違法ではないと但し書きをしたようだが、そもそもユーザーが違法と適法をきちんと見分けているとは思えない。無料だから違法かな、と思っても実は適法というケースだって相当あるだろう。

第4の問題点として、違法ファイルの1ヶ月あたりの平均ダウンロード数の推計がおかしい。先頃、大学生が平均の意味を理解できていないという調査結果が話題になった。ひとびとが平均の意味を理解していないことを利用して、都合のいい結果を出してやろうという姿勢が垣間みえる。

たとえば、「動画配信サイト」から違法ファイルをダウンロードした数は、ユーザーひとりあたり1ヶ月平均で32.6ファイルとはじいている。これは妥当だろうか?データの分布をみてみよう。

3ヶ月に1ファイル以下: 21.0%
2ヶ月に1ファイル:     7.6%
月に1ファイル:      19.7%
月に2~5ファイル:    30.3%
月に6~10ファイル:   11.9%
月に11~20ファイル:   4.9%
月に21~30ファイル:   1.8%
月に31~50ファイル:   1.4%
月に51~100ファイル:  0.5%
月に101ファイル以上:   0.9%
サンプル数:1507

この分布で、1ヶ月平均が32.6ファイルというのは、かなり不自然だ。詳しいことは公表されていないのでわからないが、「月に101ファイル以上」をダウンロードするという0.9%のなかに相当なヘビーユーザーがいて、それが平均値を高い方へと強くひっぱっているとみるべきだろう。「動画配信サイト」以外の「P2Pファイル共有ソフト」「掲示板などのサイト」等の利用者の平均ダウンロードファイル数と分布を比較しても、すべてにおいてまったくおなじ問題が読み取れる。

ここでいうヘビーユーザーは、特別に多い数字を回答したひとか、あるいは無料だからこその「お試し」聴取を猛烈にしているユーザーだと考えられる。平均を求めるうえでは、検定のうえそのような「はずれ値」を除去しないと、集団を代表する値としては不適切である。もちろん、0.9%にも満たないヘビーユーザーを除けば、1ヶ月平均のダウンロード数の推定値は、大幅に(たぶん10分の1程度に)減るだろう。

最終的な被害額は、(1)12~69歳の日本の人口 × (2)ダウンロード利用率 × (3)平均ダウンロードファイル数 × (4)1曲あたりの平均価格 で計算している。前述のとおり、この調査方法では(2)(3)が実際よりも高く出る。

ということで、音楽の違法ファイルのダウンロードによる実際の被害額は、7000億円の数10分の1くらいとみるのが妥当だろう。これは松議員が自主的に「加算」した310億円あまりよりも、たぶんずっと少ない数字である。

それから大事なこととして、違法ファイルは無料だからこそダウンロードされるのであって、有料化すれば被害額がすべて収入に変わるというのが幻想であることは、たいして考えなくてもわかることだ。

この調査は、著名な調査会社が受託したもののようだ。彼らはプロなので、ここで書いたような問題点はわかっているはずだ。だが、依頼者の性格からして、被害額を多く出すことが望まれていたのだろう。調査会社は依頼者の意向に沿った数字を出して、依頼者はそれを使って国のルールを変えようとしている。

だが、こんな数字が国会の場で、まことしやかに披露され、それが根拠のひとつになって、国のルールが変わってしまっていいはずがないと、ぼくは思う。

とはいっても、問題はお金ではなく、ルールを守るよう若者を「教育」するのが、「大人」の役目という意見もあろう。だが、それをいうならば、まず問われるべきはルールの決め方だろう。それならば、根拠の危うい数字を無批判にふりかざしてルール・メイキングをするべきではない。いまの著作権法では、違法ファイルをダウンロードするだけで、たしかに違法にはなっているのだが、そのルールがどう決められたのかについては、『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(第4章)に詳述したので、この問題に関心のある方には、ぜひともお読みいただきたい。

テーマ : 文明・文化&思想
ジャンル : 学問・文化・芸術

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