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TPPと著作権 大筋合意を受けてこれから起こること
TPP交渉が5日に大筋合意に達したと発表があった。ぼくの基本的なスタンスは、著作権のような文化のあり方に直結することを貿易交渉のなかでやることに大きな違和感があり、ましてや秘密交渉ならなおさらだということにある。なお、交渉全体をどう評価するのかは重要な観点だと認めるが、それはぼくの能力を超える。そのうえで、これから起こるであろうことを書いておく。ただし、現時点では不確かな予想も混じってるし誤解もあるかもしれないので、その点は注意してもらいたい。

まず、いまの段階ではまだ「大筋合意」なので、条文を確定する作業がまだ残っている。これにはあと1ヶ月以上はかかるのではないだろうか。大急ぎでやったとして確定は11月初旬。これが遅れると後のことが全部遅れる。

条文が確定したら「署名のための開放」が行われる。それから各国がそれに署名して、それぞれの国内手続きに入る。米国大統領が署名(これは批准のことではない)するには、貿易促進権限法(TPA)によって90日前までに議会に通知しなければならない。そうすると、米国の署名は早くて2月初め。たぶん、他の交渉参加国もそれと同時に署名するだろう。米国での条文の全文の公開については、署名の60日前までにネット公開することをオバマが義務付けたらしいので、12月初め頃にはあきらかになるだろう。
(2015年11月5日追記:本日、現時点でのテクスト全文がニュージーランドから公式に公開された。ただしまだ確定条文ではない。)
(2015年11月6日追記:5日にオバマは署名を議会に通知した。これにより、米の署名は早くて来年2月3日になった。)
(2016年2月4日追記:本日、参加12カ国がニュージーランドで署名した。)

署名してから米国内での実施法案をまとめるのに最低1ヶ月として、審議入りが3月初め。そして今回オバマにはTPAが与えられているから、議会は90日以内に法案を全部受け入れるか、全部拒否するかのオール・オア・ナッシングの判定を下すことになる。TPPをめぐっては米国内でも意見が割れているので、すんなり通るとはとても思えない。米国議会で否決されるシナリオも考えられないわけではないが、まあ可能性は低いだろう。時間をいっぱいいっぱい使うと米国の批准は5月末くらいか。

米国に忠実な日本としては、それまでに批准しておきたいところなのだろうが、そうはいかない事情がある。来年7月の参議院議員選挙である。TPPが来年の通常国会後半の中心になることはほぼ決定的だが、集票力の高い農業団体には不人気な内容を含んでいる。与党の見込みどおり、来年夏までに国民は安保法案のことは忘れるとしても、支持率回復は気になるところなのでTPPの審議あるいは採決を選挙後に先送りする可能性もある。

日本の批准がいつになるのかは別にして、TPPに合わせた国内法の改正に向けた動きは、すでにはじまっている。たとえば、10月21日にマンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟が著作権侵害の非親告罪化について、赤松健氏、玉井克哉氏、福井健策氏、コミケ関係者らにヒアリングするという情報がある。

ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)の例からみても、TPP批准審議に入る頃には、必要な国内法改正は終わっているだろう。それはおそらく、審議会などを通さない方法で来るだろう。そうなると、ロビイング力のある業界団体の、ほぼ独壇場になる。さらに、TPP関連法案がまとめて審議されるだろうから、著作権のような票にならない分野は審議時間も割かれず、報道も少ないという状況が予想される。それにいまのような国会勢力図だと、与党の思うままの法案が通る。日本が提唱したACTAの場合は秘密交渉にしたことが致命傷になって欧州で否決され、事実上お蔵入りしたわけだが、ACTA以上の秘密交渉だったTPPを批判できる市民力は、残念ながら日本国民にはなさそうだ。
(2015年11月5日追記:昨日、文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会があり、TPP対応の法改正についてヒアリングが行われた。急ぎで審議会審議をする方向になったようで、ここでの予想は幸い外れた。)

それよりも前に、最終条文の日本語訳がいつ公開されるのかが問題だ。おそらくすでに翻訳にとりかかってはいるのだろうが、米国での公開よりは早くはならないはずだとすると12月頃だろう。ちなみに官邸からは10月5日に「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要」なる文書が公開された。この程度の文書をどうしてもっと早く出せないのかと思う。知財に関しては、Wikileaksなどのリーク文書と内容に食い違いはなく、リークの正しさは証明された。
(2016年1月8日追記:昨日、昨年12月末時点の条文の暫定仮訳が正式公開された。)

ちなみにこの「概要」だが、日本向けにカスタマイズされたものになっている。米国通商代表部は大筋合意に合わせてTPPのサマリーを公表し、またTPPのサイトを作ったようだが、現時点で日本から出ているものほど詳細な情報はみつけられず、その点では日本政府は情報公開にがんばってくれているのかもしれない。

しかしそれにしても、訳語選択から生じる微妙なニュアンスの差違には気を付けたほうがよい。たとえば「概要」の非親告罪化の部分(31頁)には、「故意による商業的規模の著作物の違法な複製等を非親告罪とする。ただし、市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない」とあるが、「収益性に大きな影響」の「大きな」にあたる表現が、最新リーク文書(2015年5月時点テキスト)注251にはみられない。この注はリーク文書時点で確定していると読めるのだが、最終条文にほんとうに「大きな影響」の表現が含まれるか要チェックである。その「大きな影響」を具体的にどう法律に落とし込むのか、大きな疑問が残るのだが。

このほか、「概要」32頁の「知的財産権等使用料(受取・支払)の推移」グラフでは、日本は大きな黒字になっているのだが、これは特許を含めた数字であって、こと著作権料に限っては福井健策弁護士が何度も指摘してるように、日本は大赤字なのだ。ミスリーディングを誘うグラフなので要注意。

さて、TPP交渉国が協定を批准したとして、それですぐに発効するわけではない。そこで気にしなければいけないのは、2月12日のエントリに書いた、米国議会のサーティフィケーション・プロセス(承認手続き)のことだ。サーティフィケーション・プロセスとは、交渉参加国の法改正が米国の要求を満たしていると承認するプロセスのことで、それが完了するまでは米国の国内法上の手続きを終えたことを相手国に通知することを保留するらしい。そういうプロセスがもし存在するならば、日本の国内法の改正案を事前に米国に提示して「これでよろしいでしょうか」的なやりとりが発生するという、情けないことも起こりえる。もちろん、そんなことは表沙汰にはできないだろうが、ありえることだ。

さて、「概要」36頁にはTPPが発効する条件として、「全ての原署名国が国内法上の手続を完了した旨を書面により寄託者に通知した後60日後」か、あるいは「2年以内に全ての原署名国が国内法上の手続を完了しない場合、原署名国のGDPの合計の少なくとも85パーセントを占める少なくとも6か国が寄託者に通知した場合には、本協定は上記2年の期間の経過後60日後」に発効するとある。10月7日の朝日新聞の報道によると、米国の名目GDPは62.1%、日本は16.5%だから、日米のどちらかが寄託者(今回はニュージーランド)に手続き完了を通知することが、TPP発効の必要条件になる。

そこで気になるのが、やはりサーティフィケーション・プロセスとの関係だ。仮に米国が他国の国内法改正の水準を見極めるまで通知を遅らせたら、その間はTPPは確実に発効しない。(しかし、相手国の法律はすでに変わっている。)それでは、米国はいったいいつまで通知を遅らせることができるかとなると、そこにオバマの任期がからんでくる。次期大統領が誰になって、そのひとのTPPへのスタンスがどうなるかはわからない。有力候補のヒラリーは、あきらかにTPPには後ろ向きだし、彼女が当選したらTPP再交渉というシナリオもありえる。米政権はオバマの業績として任期中にTPPの発効を確実にさせたいところだろう。そうなると、2016年11月8日の大統領選挙前、遅くとも2016年中にはサーティフィケーション・プロセスを完了しなければならない。

それがまた、日本の法改正・批准日程に跳ね返ってくる。仮に2016年夏の参議院議員選挙後までTPPのことは先送りにするにしても、まじめな与党は秋には臨時国会を招集して、米国にあわせて2016年内に決着させようとするだろう。そんなに急ぐ必要はぜんぜんないのだ。むしろ米国に先に国内手続き完了を寄託者に通知してもらい、サーティフィケーション・プロセスによる米国からの横やりを無力化し、「親分」の顔色をうかがうことなくじっくりと国内議論をすればよい。つまり、日本のTPP対応は米国大統領選の結果などをみながら2017年の通常国会までかけて、何が国益なのかをじっくり考えるのがいい。日本が通知しなければTPPは発効しないという強みがあるうえ、5年も交渉してきたことが半年や1年遅れたとして、それが経済で大打撃を受けるわけでもないのだから。

いずれにしても、TPPに入るための著作権法改正への動きはもうはじまっている。保護期間延長も非親告罪化も法定賠償金も過去の審議会では導入が見送られてきたものばかりだ。政治家主導の立法は、熟議がないので危険だ。先日改造された第3次安部内閣で著作権を主管する文部科学大臣になった馳浩氏は、業界のいいなりになって違法ダウンロード刑事罰化を推進した中心人物だということも、忘れてはいけない。

(2015年10月10日 文言を一部修正)
(2016年4月20日追記:TPP批准案と関連法案は4月5日に衆議院で審議入りしたが、黒塗り文書問題やTPP特別委員会の西川委員長による「暴露本」出版計画などで紛糾していたところへ熊本地震がおこり、政府は今国会での批准を断念するようだとメディアは伝えている。)
(2016年10月18日追記:TPP承認案と関連法案は、10月14日に衆議院の特別委員会であらためて審議入りした。)
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